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『逆境戦隊バツ「×」(2)』(坂本康宏) [読書(SF)]

 昨日に続いて、劣等感をパワーにして変身する戦隊ヒーローを大真面目に書いたシリーズの2巻を読んでみました。

 これまでの作品でも、なぜ合体するのか、なぜ変身するのか、その理由とメカニズムを、無理やりに、しかし真面目に、説明するSF設定を作ってきた作者のことですから、「運動オンチのオタクと、婚期を逃しかけたキャリアウーマンと、糖尿病のデブと、陰の薄い窓際族」(文庫本p.240)が、それぞれレッド、ピンク、イエロー、ブラックの戦闘スーツを装着した超人ヒーローに変身して怪人と戦う、なんていう無茶な話にでも、それなりのSF的な理屈を用意するだろうと期待していたのです。

 はたしてその通りでした。

 実は、1巻を読んだ時点で、これは「仮想現実」テーマのSFにするつもりだろうと、すなわち舞台となる世界は現実のものではなく、コンピュータのメモリ上か、あるいは誰かの精神内世界(インナースペース)にあるバーチャルリアリティで、だから一定のルールさえ守れば変身でも超能力でもポーズとるだけで実体化する武器なんてのも可能だという、まあそういうことなのだろうと、思っていたのです。

 しかしながら、さすがは坂本康宏。そんな安直な、何でもアリの実質的な夢オチではなく、それこそ無理やり強引なSF設定で何とか説明してしまいました。

 正直いって説得力はないし、SFとしてもどうかと思えるし、長々と設定を説明するシーンはダレてるし、これなら「戦隊ヒーローものの世界だから、これでいいのだ」と開き直った方が、たぶん作品の出来という観点からは、その方が良かった。

 しかし、おそらく作者もそんなことは百も承知なのでしょう。それでも理屈をこねてしまう。そこがSF者のサガというか、どうしようもなく共感してしまうところ。この、負けを覚悟で苦しい「SF理屈」をこじつけてしまう作者がたまらなくカワイイと感じる私はどっか変なのでしょうか。

 作品として冷静に見ると、伏線はきちんと回収しているし、ストーリーもよく練られているのですが、やはり後に書かれた『稲妻6』に比べて完成度はぐっと落ちます。

 でも、作品の出来不出来より、何というか『すごい科学で守ります!』(長谷川裕一)のような、子ども向け特撮番組を無理やりSF的に考察して理屈をつける、しかもそれを熱く語ってしまうという、SF者なら誰もがやってしまう恥ずかしい行為を、ただの若気の至りで終わらせず、小説として書いて、ハヤカワ文庫から出して、しかもこともあろうに解説で梶尾真治さんに褒められるという、まずそこが素敵だと私なんか思うのですが、たぶん作者を含め誰にも通じない感想ですね。

タグ:坂本康宏
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