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『夫婦茶碗』(町田康) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“町田康を読む!”第2回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、「二冊目にして、すでに芸風の確立した大家の様相」(斎藤美奈子)と評された『夫婦茶碗』です。単行本出版は1998年1月。私が読んだ文庫版は2001年5月に出版されています。

 収録されているのは『夫婦茶碗』と『人間の屑』の2篇。前作同様、人として駄目な主人公が、色々と駄目なことをしたり考えたりした挙げ句、やっぱり駄目でした、という話。この要約は毎回使えそう。

 それにしても前作からの進歩には驚かされます。文章のテンポはますます良くなり、ぎこちなさがとれて、随分とまあ余裕かましています。ただの「いちびり小説」だと思って油断して読むと、あちらこちらでついつい泣かされたり感動させられたりして悔しい思いをします。要注意。

 どちらも良いのですが、個人的には『人間の屑』が大好き。てんで駄目な男が様々なものから逃げて逃げて反省なくふらふら自堕落に生きてゆくどうしようもない様を書いた小説ですが、まあその面白いこと面白いこと。うはははと笑いながら、あれもう終わるのか、もっと続けてほしいのになあ、と正直思いました。

 あと、これまでの作品にもちらちらと出ていた猫ですが、『人間の屑』で初めて本格的に活躍するのが嬉しいところです。死にますが。あと前作に比べて女性の登場人物がけっこう印象的に書かれているのも良いところ。一部、印象的すぎて震え上がるシーンあります。怖い。

 というわけで、いちびり小説も極めれば文学というか、人間の屑を書かせればこの人の右に出る者はいないというか、実は自叙伝ではないのかとか、とにかく感心するしかない面白さ。

 文庫版の解説を筒井康隆さんが書いているのですが、いきなり冒頭で「文中、作者や作品への褒めことばは、おおむねわし自身への自己評価であると思っていただいてよい」と断言し、しかる後に、知的だ、画期的だ、第一級の文学者たる資質を備えている、文学賞をやらなかった選考委員はアホだ、と絶賛しています。ああ、その手があったか。


町田康を語る言葉コレクション

「わしやわしの作品と共通するものが極めて多い」(筒井康隆)

                      文庫版『夫婦茶碗』解説より

タグ:町田康
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