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『グローリー』(グレッグ・イーガン) [読書(SF)]

 しばらく執筆活動から遠ざかっていたグレッグ・イーガンですが、昨年は短編をいくつか発表し、今年になって長編を完成させ、本格的に復帰したというニュースに大喜びしたSFファンは多いことでしょう。

 私も読みたい読みたいと思っていたのですが、ようやく最新短編が翻訳され、SFマガジンに掲載されました。SFマガジン2008年11月号の特集「宇宙SFの現在」として掲載されている翻訳もの4篇のうちの一つです。

 ある惑星で、300万年に渡ってひたすら数学を探求した文明の遺跡を調べる調査員が主人公。どうやらその文明は、数学の大統合に成功し、究極定理を発見し、そしてなぜかそのために滅びたようなのですが・・・。

 オーソドックスな「異星の遺跡調査」テーマの短編です。「純粋数学が最終兵器として機能するとしたら」というアイデアが使われていますが、イーガン流のとんでもない論理のアクロバットを期待すると肩すかしを食らいます。やや古めかしいアイデアストーリーSFを思い出させるような、ごく普通の展開。安心して読める反面、イーガンの作品としては物足りない気がします。

 むしろイーガンらしいのは、冒頭の恒星間旅行シーケンス。ナノマシン群を加速して目的の恒星系に撃ち込み、目的地で“宇宙船”および“乗組員” を製造する(もくろん乗組員の意識や人格も一緒に転送する)という方式ですが、この過程を2ページ以上に渡って詳しく描写していて、ここがやたらカッコいい。

 他の短編、および最新長編もそのうちに翻訳されることと思われますので、楽しみです。

 同特集では『ヴェルザンディの環』(イアン・マクドナルド)が、時間的空間的にものすごくスケールの大きい恒星間戦争を扱った好短編で、その目眩を引き起こすようなきらびやかな文章が気に入りました。ただ、メインアイデア(敵の正体)がいかにも“ありがち”なのにちょっとがっかり。

 『ウルフ359なんか怖くない』(ケン・マクラウド)は、いわゆる「ロストコロニー」テーマのバカSFで、コンタクトが途絶えた実験惑星ウルフ359に調査に赴く話。軽妙な語り口でどんどん無茶な展開を通してしまうユーモラスな作品です。

 『戦争と芸術』(ナンシー・クレス)も恒星間戦争の話で、これは敵である異星人が地球の芸術作品を略奪し収集している理由を探るというストーリー。ラストでけっこう意外な真相が明かされますが、ストーリー展開に面白みが欠けているのが残念。

 というわけで、現在の宇宙SFは「調査」か「戦争」しかすることがないのか、という気もする特集でした。なお「最新宇宙SFブックガイド」が非常に役に立つので、SFファンなら今月号を購入して紹介されている最新の宇宙SFをバリバリ読むとよいかと思います。

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