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『長江哀歌』(ジャ・ジャンクー監督) [映像(映画・ドキュメンタリー)]

 三峡ダム建築により水没する予定の古都とそこで生活する人々の姿をとらえた中国映画。ベネチア国際映画祭で金獅子賞グランプリを獲得した賈樟柯監督の代表作です。

 ちゃんとストーリーがある映画なのですが、映し出される風景のインパクトがあまりに強いため、ドキュメンタリー映画としか思えなくなりました。

 画面の背景に広がるのは、美しい長江、そびえ立つ険しい山々、深い森とたなびく霧。山水画の世界です。李白をはじめとして古来から多くの詩文に歌われた、中国古典のイメージそのもの。

 その手前に広がるのは、打ち壊された家屋、廃墟と化した建物。それも尋常な量ではなく、まるで未知の惑星、あるいは核戦争後の世界にいるような圧倒的な破壊の景色にたじろぎます。そして、人手で取り壊し作業(危険極まりない)を黙々と続けている労働者たち。

 あまりに異様な対比に観客の思考も麻痺してしまうのですが、その中を主役二人の男女が、それぞれ自分の配偶者を探して歩く、というのがあらすじです。二人にはそれぞれに事情があるのですが、いずれも「失われてしまい、もう取り戻すことが出来ない歳月や関係」に向き合うことになります。もちろん、取り壊されてダムに沈む街というイメージと重ね合わせているのでしょう。

 強制移転、労働問題、貧困など現代中国が抱える社会問題も扱われますが、特に何かを主張するようなことはなく、あくまで風景の一部として扱われています。

 同じフレームの中で、古典中国と現代中国が長江を隔てて両側に広がっている、その違和感。

 さらに監督は、違和感を強調するためにUFOまで飛ばします。さりげなく空を飛ぶUFOを見ても登場人物は誰も気にしないし、観客も気になりません。というか圧倒的な違和感の前に、UFOの一機や二機くらいどうということもないと感じ。(他にもビルが唐突に崩れたりロケットになったり、漫画的な表現がいくつかしこまれています)

 中国は巨大な矛盾を抱えた国ですが、それをここまで分かりやすく“絵”として見せる手際には感心させられました。

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