SSブログ

『短篇ベストコレクション 現代の小説2008』(日本文藝家協会編) [読書(小説・詩)]

 2007年に発表された短篇の中から、日本文藝家協会が最優秀作品を厳選して収録したアンソロジーです。基本的には一般小説ですが、純然たるハードSFやホラーも含まれています。

[収録作品]

『絹婚式』(石田衣良)
『“旅人”を待ちながら』(宮部みゆき)
『黒豆』(諸田玲子)
『匂い梅』(泡坂妻夫)
『笑わないロボット』(中場利一)
『涙腺転換』(山田詠美)
『秋の歌』(蓮見圭一)
『みんな半分ずつ』(唯川恵)
『雪の降る夜は』(桐生典子)
『黄色い冬』(藤田宜永)
『図書室のにおい』(関口尚)
『ぶんぶんぶん』(大沢在昌)
『弁明』(恩田陸)
『五月雨』(桜庭一樹)
『初鰹』(柴田哲孝)
『その日まで』(新津きよみ)
『蝸牛の角』(森見登美彦)
『渦の底で』(堀晃)
『蝉とタイムカプセル』(飯野文彦)
『唇に愛を』(小路幸也)
『私のたから』(高橋克彦)


 最も気に入ったのが『蝸牛の角』(森見登美彦)。例によって京都を舞台にクサレ大学生どもが阿呆の限りを尽くす話ですが、これだけ同じ題材を繰り返し書いて、いまだに飽きない(作者も読者も)というのは凄いと思います。

 『弁明』(恩田陸)も素晴らしい。劇中劇のように作品中で一人芝居が行われるのですが、読むにつれて次第に「これは本当に芝居なのだろうか」「この語り手は既に死んでいるのではないか」という疑惑が広がってくるあたりの手際が見事。

 他には『涙腺転換』(山田詠美)も好み。「男は泣いてはいけないと母親に厳しく戒められたため、泣きたくなると涙が小便となって膀胱にたまるという特異体質になった」という馬鹿な設定で、次々と馬鹿なことを大真面目な文体で書いていて、思わず笑ってしまいます。昨今の安直な“泣かせ”だけの映画や小説に対する風刺なんでしょうね。

 他にも、ちょっとした構成のひねりで、青春小説の気恥ずかしさをうまく緩和して見せた『唇に愛を』(小路幸也)、素朴なユーモアで読ませる『笑わないロボット』(中場利一)、などが印象に残りました。

 収録作の作者はいずれも「読んでいて当然」というレベルの著名作家ですが、私にとっては、恥ずかしいことに、半分以上が本書で初めて読んだ作家でした。己の無教養ぶりにがっくり。これを機会に、もう少し読書の幅を広げようと思います。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0