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『変愛小説集』(岸本佐知子編訳) [読書(小説・詩)]

 タイトルは誤植ではありません。“恋愛”ならぬ“変愛”、つまり英米の現代小説から、“変”な愛を書いた短編作品を選んで翻訳した一冊です。意味不明な表紙からしてもう変です。

 編者および訳者は、出版社の紹介文に「あんな本を訳したのは、やっぱりこんな人でした」と書かれてしまう、変な作家の変な本を訳す変な翻訳家、 岸本佐知子さん。

 何しろこの人が気に入って自分で訳した作品を集めたわけですから、さぞや変で、さぞや面白いだろうと期待して読みましたが、いやー、期待を上回る良い短編集でした。

 どこがどういう具合に変で面白いのかを説明するのは難しいので、ここはひとつ、岸本さんの「あとがき」から引用してみようと思います。

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冒頭の「五月」という作品は一本の木に熱烈に恋をしてしまうという話だし、「リアル・ドール」は妹のバービー人形と真剣交際する少年が主人公だ。(中略)

他にも情欲にかられて若い男の子を体ごと呑み込んでしまい、腹の中で胎児のように飼い育てる人妻の話(「まる呑み」)、全身の皮膚が少しずつ宇宙服に変わってゆき、最後に宇宙に飛び立ってしまうという奇病に冒された夫婦の話(「僕らが天王星に着くころ」)、また自分を捨てた恋人が乗っている(はずの)飛行船を車でどこまでも追いかける男の話(「ブルー・ヨーデル」)などなど。

どの物語も設定こそ常軌を逸しているが、いや常軌を逸した設定であるからこそよけいに、愛というものの真の姿を、ありありと浮き彫りにしているようにも思えるのだ。
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 長々と引用してしまいましたが、要するにそういう短編集です。人によっては、ついてゆけないかも知れませんが、私は大いに気に入りました。

 どれもこれも、何とも言えず良い話なんですが、個人的に感動したのは、一本の木に熱烈な片思いをする人とそれを受け入れようと苦心するパートナーの姿を描く『五月』(アリ・スミス)、小さな島を舞台に複数世代に渡る女たちの愛憎を描く『母たちの島』(ジュディ・バドニッツ)、恋の一途さ切なさをユーモラスに描いて読者の涙を誘う『ブルー・ヨーデル』あたり。

 今、気づいたのですが、私は「呆れるような大馬鹿な設定のくせに、話自体はセンチメンタルなラブストーリー」という作品に弱いのかも知れません。

 ともあれ、英米の作家が書く「奇妙な話」、特に岸本佐知子さんが訳すようなタイプの作品が好きな方なら、きっと気に入る作品集だと思います。

[収録作品]

『五月』(アリ・スミス)
『僕らが天王星に着くころ』(レイ・ヴクサヴィッチ)
『セーター』(レイ・ヴクサヴィッチ)
『まる呑み』(ジュリア・スラヴィン)
『最後の夜』(ジェームズ・ソルター)
『お母さん攻略法』(イアン・フレイジャー)
『リアル・ドール』(A・M・ホームズ)
『獣』(モーリーン・F・マクヒュー)
『ブルー・ヨーデル』(スコット・スナイダー)
『柿右衛門の器』(ニコルソン・ベイカー)
『母たちの島』(ジュディ・バドニッツ)

タグ:岸本佐知子
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