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『旅をする裸の眼』(多和田葉子) [読書(小説・詩)]

 以前に読んだ『容疑者の夜行列車』と同じく、旅を続ける異邦人の視点から書かれた小説です。単行本出版は2004年12月。私が読んだ文庫版は2008年1月に出版されています。

 パリが主要な舞台。が、今作では、わけありの不法入国者でフランス語もドイツ語も英語も分からないという徹底した異邦人が、いわゆる視点人物の役をつとめることになります。

 言葉が分からないまま、女優カトリーヌ・ドヌーヴの映画を見続ける主人公。ただしセリフは聞き取れないので、映像から想像力で物語を構築してゆくのです。日々の生活、周囲で起きている出来事についても同様です。

 こうして読者は、言葉に頼らない視覚情報を文章で読み、想像力で物語を構築するという、奇妙な読書体験をすることになります。展開は意外と波瀾万丈だったりしますが、読んでいる間そんな感じは全然なくて、ずっと静謐な雰囲気が続いていたような印象です。

 それでいて退屈することはなく、先が気になってどんどんページをめくりたいという気持ちと、もっとじっくり読みたいという気持ち、両方を強く感じながらもストレスにはならない、そういう不思議な作品です。読後、何とも説明のしようがない強い感動を覚えました。

 やはり多和田葉子さんの文章は良い。読んでいて心が落ち着きます。

タグ:多和田葉子
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