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『時砂の王』(小川一水) [読書(SF)]

 宇宙を舞台にしたサバイバルSFの傑作『天涯の砦』から1年、小川一水さんが時間SFを出しました。

 時間線を次々と遡って、敵性エイリアン戦闘機械との“終りなき戦い”を続ける主人公を描いた、比較的ストレートな物語です。というか小川一水さんの書く話はいつもストレート。

 エイリアン側はたとえ負けそうになっても次々と時間を遡って地球の過去に攻撃を加えてくる。防衛側も先回りして過去に干渉することで、どんどん時間分岐を引き起こしてゆく。

 エイリアン側が勝利した時間分岐からは、どんどん過去に向かって援軍が送られてくる。すでに苦戦状態にある人類は、過去に戻れば戻るほど敗北が確定した“未来”が多くなって(味方の援軍より)敵の援軍が増えるので、どんどん戦いが苦しくなるという嫌な設定。

 これ以上、過去に遡ればもはや勝ち目なしという最終防衛線となるのが、西暦248年の日本、邪馬台国における戦い。そこで卑弥呼という軍事の天才と出会った主人公は、圧倒的に不利な状況下で、邪馬台国の兵士らを指揮してエイリアンの戦闘機械との死闘を繰り広げることになるというわけ。

 設定は割と陳腐だし、登場人物もまあ類型的に過ぎるのですが、スピーディな展開で楽しませてくれます。また、『天涯の砦』でも感じましたが、この作者は閉塞状況を描くと非常に筆が冴えます。

 戦えば戦うほど不利な時間分岐が増えてゆくという大局から、圧倒的な戦力差で敗走を重ねる邪馬台国軍という戦術レベルの戦況に至るまで、とにかく絶望的な閉塞感の演出が上手い。これをどうやってひっくり返すか、という興味で読者を引っ張るちからわざも健在。

 よくも悪くもストレートな直球勝負というのがこの作者の魅力だということを再確認させてくれる快作です。

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