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『猫にかまけて』(町田康) [読書(随筆)]

 世に猫エッセイ数あれど、これほど強烈な筆力で読者の感情を揺さぶってくるものは希有ではないでしょうか。

 最初は、爆笑ネコエッセイだと思って読むわけですよ。飼い主の涙ぐましくもアホらしい努力や気づかい、それを台無しにする猫たちの反応、もうこれが可笑しくて可笑しくて、思わず「うっ、くくくっ」とか笑ってしまう。

 そうやってご機嫌で読み進めていると、猫が死ぬんですね。様子が変になって、具合が悪くなって、次第に衰弱して、やがて苦しみぬいて死ぬ。そのありさま、その経過、飼い主の心の動きを、克明に書くわけです。

 だーっ、と涙が出てきます。読んでいてつらいです。

 一冊の構成がまたよく計算されていて、あらかじめ猫に感情移入するよう巧妙に読者を誘導しておいて、その猫が死ぬ過程をじっくり書き込む。前半、後半、2回もそれをやるわけで、どちらも泣けます。

 特に前半のヘッケが死ぬところなど、涙で視界がぼやけて何度も読むのを中断するはめに。思い出しても悲しみが込み上げてきます。何で見たこともない他人の猫の死にここまで心が揺さぶられるのか。これが筆力というものでしょう。

 というわけで、猫好きにとってはかなり凶悪な本なので、電車の中で無防備に読むとか、ペットに死なれた直後にうっかり読んでしまうというのは、全くもってお勧めできません。

タグ:町田康
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