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『セックス放浪記』(中村うさぎ) [読書(随筆)]

 ジュニア小説作家からスタートして、買い物依存症になって1億円ほど浪費し、その後ホストに入れあげて貢ぎまくった挙げ句に破綻し、美容整形マニアになって身体中にメスを入れ、ついにはデリヘル嬢になって2桁の人数の客のものをしゃぶって・・・、という自らの体験を赤裸々に書いてきた著者のエッセイ最新作。

 最初のうち「ちょっとお馬鹿な女性作家の自虐的浪費エッセイ」だと思って喜んで読んでいた読者(主に中年男性)も、その後の暴走っぷりについてゆけなくなり、次々に脱落していったようです。前作のデリヘル体験記なんか非難轟々だったとか。

 さて本書。何しろストレート過ぎるタイトルですから、気の弱い小市民の私は、びびりつつ読みました。内容は、あー、タイトルそのまんま。

 衆目の前でセックスしてみたり、SMクラブで天井から吊るされてみたり、デリヘルボーイを買ってみたり。自らの欲望のままに「決して満たされることのない不条理な渇望」をセックスにぶつける著者。

 ついには、ウリセンとのセックスに溺れて何日も家に帰らずホテルに泊まりきりでヤリまくった挙げ句、愛想をつかした夫が家を出て行ってしまった、という顛末を詳しく書いています。

 しかし、決して手に入らないと分かっている幻の幸福(例えば“愛”とか)を求めて破滅への道を突き進む他にない著者の姿は、この上なく愚かで滑稽で悲劇的ですが、しかし全くの他人事だと言い切れる読者も少ないのではないでしょうか。

 多かれ少なかれ誰もが「決して満たされることのない不条理な渇望」やら「激しい破滅願望」やら胸の底に抱きつつ、それを見ないふりして何とか平穏に日常生活を続けている社会において、自らの欲望に振り回され何度も奈落の底に落ちることを自覚的に受け入れて書き続けたエッセイの数々。これは現代の文学が手に入れた大きな収穫ではないかという気がします。

 気弱な小市民の私としては、年金制度が破綻しないよう祈りつつ、同時代に中村うさぎという英雄豪傑(あるいはキリスト教的な受難者)がいて、その冒険をリアルタイムに読むことが出来るという、自らの幸運を喜ぶばかりです。

タグ:中村うさぎ
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