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『星新一 1001話をつくった人』(最相葉月) [読書(SF)]

 本書は、あちこちで大いに話題になっている星新一の評伝。ベストセラー『絶対音感』の最相葉月さんが、星新一/星親一の真実の姿を、徹底取材によって生き生きと描き出してくれます。

 私も若い頃に星新一の本を読み漁ったので、彼に関する様々なエピソード、語録、人となり、SF作家やファンダムとの関わり、何となく良く知っているものと思っていました。

 ところが、本書を読んで、「ショートショートの神様」「ミスターSF」などと崇めながら、実のところ一人の人間としての星親一さんについて、ほとんど何も知らなかった、気にしてなかった、ということを痛感させられました。

 前半は、父親の一代記から始まって、戦時下の青年時代、星製薬をめぐるゴタゴタなどが書かれています。

 あの「星新一」と結びつけるのは何となくはばかられるようで、みんなあんまり突っ込まないようにしていた事柄を、著者は丹念に掘り起こすことで、彼の人生の輪郭を明らかにしてゆきます。なお、晩年について書いた部分で、ここの記述が蘇ってくる構成はお見事。

 後半は、日本SF黎明期のあれこれ、出版界における出来事の数々、引退後の生活など。他のSF作家との付き合いやファンダムの様子など生々しく書かれていて、SF魂が燃え上がりそうになったり、胸に迫って涙が出そうになったり。

 直木賞がとれず、ほとんど文学的評価を受けられなかったことで屈託をため込む姿、他の作家や編集者との確執、晩年の無残で孤独な有り様など、これまで触れたことのない星新一の姿にはただ驚嘆するばかり。

 私と同年代の、しかも(おそらく)SFファンでない著者が、これだけの仕事をなし遂げたことに畏敬の念を覚えるとともに、では星新一を尊敬し愛し応援してきたはずの私たちはいったい何を見ていたのか、と自責すら感じます。

 『SFマガジン』2007年6月号のレビューで、風野春樹ドクターが

「星新一という作家の凄み、そして優れたノンフィクション作家の凄みに圧倒される力作である。SFファンすべてに読んでほしい作品」

と絶賛しながら、同時に

「こういう本を書こうという著者が、SFプロパーの側から出現しなかったことに一抹の寂しさを覚える」

と書かざるを得なかった気持ちがよく分かります。

 というわけで、とりあえずSFおよび星新一のファンは必読。あと、他のお二人(ごほんっ)についても、将来のノンフィクション作家の仕事を助けるために、今から取材して証言や資料を集めて保存しておく活動が必要なんじゃないかと、そのように思いました。

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