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『片づけない作家と西の天狗』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

シリーズ“笙野頼子を出版順に読む!”第9回。

 1999年を起点に、笙野頼子の著作を単行本出版順に読んでゆきます。今回読んだ『片づけない作家と西の天狗』、単行本出版は2004年6月。

 長編『水晶』と『金比羅』の間に位置する、愛すべき短編集。

 一番古いもので1996年、一番新しい書き下ろしが2004年。それまでの間に書かれた様々な傾向の短編を収録したバラエティに富んだ一冊です。

 伊勢、京都、八王子、雑司ヶ谷、佐倉、様々な年齢期のことが書かれており(もちろん文学的に再構成されていますが)、笙野頼子のちょっとした自伝的作品としても読めそうです。

 あと、同じ本の中で沢野千本と八百木千本(どちらも作者の分身、レギュラー)の両方が語るのを読んだのは、この本が初めて。

 個人的に好きなのは、『カニバット』で読者を圧倒した八百木千本がひさびさに語りを担当した『猫々妄者と怪』および『片づけない作家と西の天狗』ですね。

 どちらも味のある文章でぐいぐい読ませてくれます。『天狗』の途中、作者に対するあまりにもひどい嫌がらせについて書かれた部分なんか、読むのが辛くなったりしますが。

 沢野千本が語りをつとめた作品では、明るく軽快な調子で書かれた『素数長歌と空』が素敵。

 その他の短編も傑作揃いで、本当にこの人は駄作を書かない人だなあ、と感心しながら読み進めて・・・。

 『後書き モイラの事』を読んで、胸が苦しくて涙が止まらなくなるわけです。

 この後書きは笙野頼子が自ら語っていて(例えばS倉じゃなくて佐倉と書いてあります)、『愛別』『森娘』『S倉』と読み継いできた読者なら、モイラ(猫)の死にみんな泣きそうになるんじゃないでしょうか。

 そういうわけで、様々な傾向の笙野文学を一望できる上、『カニバット』『愛別』から『水晶』『金比羅』そして後の『だいにっほん』への中継点として重要な作品でもあり、「純文学論争」の裏事情も書かれてたりして、何より彼女の作品のなかではとても読みやすく、読んでいて楽しいということもあって、笙野頼子入門としてお勧めします。

タグ:笙野頼子
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