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『火星縦断』(ジェフリー・A・ランディス) [読書(SF)]

「ときには、いくら頑張っても、いくら勇気を奮っても、追いつかないこともある。宇宙は冷たく、空っぽで、非情で、人間の悲劇も土壇場の英雄的行為も際立った操縦技術も、一顧だにしない」(P262)

 バリバリのハードSF。

 いいよ、これ。やっぱ、甘ったれたところのない、直球ハードSFにはシビれますよ。

 火星への有人探査チームが、事故により帰還不能になってしまいます。残された5人の宇宙飛行士たちに残された、たった一つの生還の可能性は、火星の北極点で全滅した先行探査隊が残したはずの帰還船に辿り着くこと。

 しかし、着陸地点は火星の南半球。北極点まで、実に全長6000キロメートルに及ぶ未踏の大地が広がっています。しかもマリネリス峡谷やドライアイス雪原などの、克服不能とも思える障害が待ち構えています。

 さらに、仮に生きて辿り着いたとしても、帰還船が運べるのは物理的に人間2名まで。

 という、目茶苦茶に厳しい条件設定で、緊迫したサバイバルストーリーが始まります。著者は、NASAの火星探査計画に関わっている科学者にして、月面でのサバイバルを扱った『日の下を歩いて』でヒューゴー賞を受賞したハードSF作家、ジェフリー・A・ランディス。

 サバイバルSFの名手で、火星および有人火星探査ミッションに関する専門家。まさに、彼のためにとってあったような設定とストーリーです。

 ここ数年で読んだ火星SFといえば、ロビンスンの『レッドマーズ』と『グリーンマーズ』、ベアの『火星転移』などがあります。どれも面白いのですが、植民地が舞台となるせいで、どうしても政治関連の話が多くなり、ちょっと間延びしている感触はぬぐえません。

 その点、『火星縦断』は本当に直球。最初から最後までひたすらサバイバルです。途中で何度も挿入される登場人物たちの過去の回想シーンも、その多くが何らかの形でサバイバルに関係しているという念の入りよう。

 誰もが考えるのは「どうやって助かるのか」「誰が助かるのか」という疑問でしょう。

 まず最初の疑問。

 何しろ火星の専門家が書いたハードSFですから、「あわやというところでたまたま火星に来ていたバーナード星人とコンタクト」とか「火星の土着生命に寄生され、共生体となって火星環境で生きられるようになる」とか「突然、ランナウェイサマーが始まって助かる」といった展開は、ありえません。

 他にも、救助がやってくる(『渇きの海』クラーク)、見落としていた要因のおかげで障害が取り除かれる(『メイルシュトレームII』クラーク)なんていうパターンもなし。

 結局、『日の下を歩いて』と同じく、ひたすらサバイバルに挑戦し続け、一歩一歩、生還へと近づいてゆくのです。

 彼らが困難にぶつかっては解決してゆくメインストーリーに、探査機が送ってきた最新データを元に構築されたリアルな火星の風景描写が彩りを添えます。

 最後まで緊迫感を保持したまま500ページ以上を読ませる力量は大したものです。

 あと、「生き延びる2名は誰か」という疑問で最後まで引っ張るわけですが、これは私にとっては、疑問でも何でもありませんでした。だって、登場人物のうち、SFファンだと明記されている人は、2名しかいないんですよ(笑)。

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