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『アラビアの夜の種族』(古川日出男) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 出版直後に大きな話題となった名作。当初「ただの“ウィザードリィ外伝”のノベライゼーションでしょ?」などと甘く見ていたんですが、信頼するレビュアーが軒並み絶賛していたので、慌てて手に取り、すっかり感心したクチです。

 それが今回、角川文庫から三分冊で出ました。正直言って、一冊の大著でないと“雰囲気”が出ないんですが、まあ持ち歩くのに便利だし、場所をとらないので、未読の方は文庫版をどうぞ。

 内容ですが、「物語を物語ることについての物語」という奴で、メタフィクションの一種です。この手の話でネタとして使われる「物語」そのものは面白くないと相場が決まってるものですが、これは例外。物語そのものが異様に面白いんです。

 まず一番外側に「原著"The Arabian Nightbreeds"が辿った数奇な歴史と、古川日出男がその原著と出会い、日本語に翻訳することになった経緯」という物語がありますが、もちろん全て大嘘。

 その内側にあるのが、物語の魔力によって読む者の魂を奪い破滅させる、そういう魅惑に満ちた災厄の書物を創造し、それをナポレオンに献上して仏軍のエジプト侵攻をくい止めようとするという、いわば「物語兵器」による防衛戦というべき奇想天外な枠物語。この枠物語が、全体を貫いて、最後まで読者の興味を引っ張ります。

 そして驚くべきことに、これだけ大ぼらを吹いた上で、本当にその魔術的な3つのストーリー、「災厄の書物」を語ってゆくのです。

 これは作家にとってよほど自信がないと出来ない挑戦で、例えば「読む者を狂気に陥れるほど恐ろしい魔道書」をネタにさんざん盛り上げておいて、実際にその書物の内容を全て書いてしまう、そのような行為です。よほど恐ろしいことが書けないと、白けてしまいますよね。

 枠物語の内側に配置された3つの話は、さすがに「一読するや魂を奪われ破滅する物語兵器」というほどではないにせよ、「電車内で夢中になって読みふけるうちに、駅で降り損なって会社に遅刻する」くらいの魅惑的な物語になっています。大したものです。

 あまりにも面白いので、ちっともSFじゃないのに『SFが読みたい! 2003』ベストSF2002国内部門にて堂々4位の座を獲得。さらに日本SF大賞を受賞。少しもミステリではないのに日本推理作家協会賞を受賞。快挙をなし遂げました。

 というわけで、純粋に「物語」の面白さを再確認させてくれる作品です。ジャンルなんて関係なく、面白い本をじっくり読みたいと思う人にお勧めします。あと「ウィザードリィ」のファンにも。

タグ:古川日出男
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