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『隠し部屋を査察して』(エリック・マコーマック) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 私の部屋の本棚の一角に「奇妙な翻訳短編集」が並んでいるコーナーがあります。

 そこにあるのは、シャーリィ・ジャクスンとか、ジョン・コリアとか、パトリシア・ハイスミスとか、ジェラルド・カーシュとか、ニコルソン・ベイカーとか、ディヴィッド・イーリィとか。サキ、ル=グウィン、ダール、ラファティなんかも並んでいます。

 どれもこれも大好きなんですが、中でもとびっきりの愛読書が、このマコーマックの『隠し部屋を査察して』なんです。いつ読んでも、何度読んでも、その度に感心する、珠玉の短編集です。

 創元推理文庫から文庫版が出たので、また買って読み直してみたんですが、やっぱり感心しました。

 小説として巧いのかどうかはよく分かりません。少なくとも構成は無茶苦茶です。変な挿話が次々と、ほとんど意味なく挿入されて、何の展開もオチも無しに、唐突に終わる。そんな話がほとんど。

 文体も硬い。しばしば、調査報告書のように無味乾燥。ストーリーを劇的に盛り上げようという気はさらさらないらしく、常に淡々とした語り口です。

 例えば『祭り』をシャーリィ・ジャクスンが書いたなら、テーマを明確にし、最大限の効果を狙った構成で書くでしょう。『刈り跡』をラファティが書いたなら、もっと馬鹿馬鹿しい展開で盛り上げるでしょう。『トロツキーの一枚の写真』をル=グウィンが書いたなら、緻密で美しい文体で読者の心をがっちりつかむことでしょう。

 ところが、マコーマックは、何となく始めて、いい加減な(という印象を受ける)文章でとりとめなく続け、途中で思い出したように変な挿話を入れて流れをぶった切った上で、ただ何となく終わってしまうのです。

 テーマ、構成、ストーリー展開、登場人物、文体、あらゆる点でたぶん不合格。

 でも、これが面白い。とにかく説明不能なくらい強烈に面白いんです。『隠し部屋を査察して』も、『窓辺のエックハート』も、『パタゴニアの悲しい物語』も、どれもこれも素敵。

 『庭園列車』の徹底した破綻ぶりには、惚れ惚れしてしまいます。

 『町の長い一日』の無造作さには、心揺さぶられます。

 それに、えーと、とにかく全部良いです。最初から最後まで、とにかくマコーマックです。カナダの大学で現代文学を教えている教授だそうですが、カナダに留学したくなります。

 この、どうしても他人に説明できそうにない感動を、ぜひとも多くの人と分かち合いたいと思うので、とりあえず買って読んで頂けると嬉しいです。はい。それはもう。

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