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『海の底』(有川浩) [読書(SF)]

 まず最初に。昨日の日記に「怪獣小説にベタな色恋沙汰を混入させるのはどうかと思います」と書いたんですが、どうやら作者もそこは気にしていたらしく、本作のあとがきに

「何で毎回怪獣にベタな青春だの恋愛だの混ぜんのよ、と思われる向きもあるかと思いますが私にこれ書くなってのは息するなってのと一緒なのですみません」

とありました。そういうことでしたら、思う存分に書いて下さい。

 というわけで、有川浩さんの本格怪獣小説第二弾、『海の底』を読みました。驚いたことに、『空の中』に比べて格段に上手くなっています。

 前作はちょっと変化球だったのですが、今作はもう真正面から怪獣モノ。体長数メートルの巨大甲殻類が横須賀港に群れなして上陸してくる話です。もちろん、しゃべりません。『漂流教室』のアレが大量に襲ってきたと思えばよろしい。人間なんぞ、ただのエサです。千切って喰われてしまいます。怪獣はこうでなきゃいけません。

 逃げ後れた子供たちを救助して、停泊中の潜水艦に退避した二人の若い自衛官。彼らと共に潜水艦内に閉じ込められた子供たち。治安維持のために盾とこん棒だけで怪獣の群れに立ち向かうはめになる機動隊。閣議決定なしには出動できない自衛隊。未知の敵を前に防衛線を維持しなければならない警視庁と県警。巨大甲殻類の秘密を追う研究者。

 様々な立場にいるキャラクターが、それぞれの苦闘を繰り広げます。確かに、どの登場人物もまあ定番だし、ステレオタイプと言えばその通り。

 しかし、前作と違って、それが欠点になっていません。むしろ読みやすさに貢献しており、何と言っても安心して応援できるし、好感を持てます。子供たちの一人一人までちゃんと気配りする作者には脱帽です。

 ストーリーも変に奇をてらわず、最初の状況設定から外れることなく、ぐいぐいと一直線に力強く進んでゆきます。動けない潜水艦に閉じ込められた子供たちは救出できるのか。警察と機動隊は怪獣の群れを押し止められるのか。そして日本は、米軍が空爆を決定する前に事態を収拾できるのか。

 開幕5ページ目にして早々と始まる侵略シーンから、ラストのお約束、ベタなラブシーンまで、一気に読んでしまいました。

 この調子で上手くなっているとすれば、次回作が楽しみです。『空の中』『海の底』と来たからには、次は『陸の上』でしょうか。前作は飛行怪獣、今作は群体怪獣、なら次はいよいよイリス覚醒でしょうか。もう期待が膨らんで膨らんでパンパンです。早く書いて下さい。怪獣さえ出せば、いくらベタな青春や恋愛を混入してもかまいませんから。

タグ:有川浩
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