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『台湾“駅弁&駅麺”食べつくし紀行』(鈴木弘毅) [読書(随筆)]

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 駅弁・駅麺の最大の利点は、安心感だった。台湾語を話せない外国人観光客にも親身に接し、受け入れようとする包容力。注文の仕方を間違えても、どうにか汲み取って対応してくれる寛容性。これらが、外国人旅行者にとっては最大の利点になるのではないかと思う。
 そして、駅弁・駅麺は、どれも美味しかった。辛口のコメントを残した場面もあったけれど、なんだかんだ言いながらも全部食べた。食べきれずに残したものは、ひとつもなかった。スープ麺は、スープを一滴たりとも残さずに飲んだ。弁当は米粒ひとつ残さずに食べ、排骨は骨までしゃぶった。舌だけでなく、体が受け付けたのだ。五香粉も、噂されていたほどには抵抗を感じなかった。日本に帰ってからも、時々台湾料理が恋しくなりそうだ。
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単行本p.191


 駅なかグルメのエキスパートが、台湾島を一周しながらひたすら駅弁と駅麺を食べる。駅なかグルメに特化した一風変わった台湾ガイドブックというか台湾旅行記。単行本(イカロス出版)出版は2020年6月です。


 台北を出発して台湾島を反時計まわりに電車を乗り継ぎ、出来るだけ多くの駅で下車しては、駅弁と、駅なかの店で麺を食べる。臺鐵便當(台湾鉄道駅弁当)制覇とか、台湾グルメ本でも意外になかったような気がする駅弁駅麺特化の台湾本です。


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 昨今、日本を訪れるインバウンドの観光客が増え、彼らの間では駅そばも人気の的となっている。海外の大衆グルメを研究することは、必ずや駅そばの研究にも活かされる。いや、それどころではない。国内の駅そばを研究するうえで、諸外国の大衆グルメ事情を知っておくことは、急務だと言ってもいい。この期に及んで、ようやくそこに気づいたのだ。(中略)本書は「プロが台湾の魅力を教えます」というスタンスで綴るものではない。私が真に伝えたいのは、「台湾は、初心者がふらりと訪れても、こんなにも楽しめるのだ!」ということだ。台湾に行ったことがない方、それどころか海外に出たこともない方、「行ってみたいけど言葉が分からないから」と尻込みしている方にこそ、ぜひ本書を読んでほしいと思う。
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単行本p.6、8


 あとがきで「よりにもよって乾坤一擲の想いで取り組んだ海外題材の単行本を出そうというタイミングでこうなってしまうのかと、頭を抱える日々である」(単行本p.206)とありますが、むしろ台湾に行けない悲しみを抱えて生活している台湾旅行リピーターの皆さんにお勧めの一冊。


〔目次〕

序章 2年ぶり2回目の台湾へ!
第1章 グルメ天国の台北駅
第2章 西部幹線を南へ!
第3章 台湾中西部と阿里山森林鉄路
第4章 南部の二大都市をゆく
第5章 東海岸駅弁街道縦走録
第6章 台北近郊散歩、そして凱旋
終章 国内で食べる台揺駅弁&駅麺




第1章 グルメ天国の台北駅
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 慌てて先に食べた臺鐵便當の容器を見ると、底の裏に「臺北」との記載があった。つまり、七堵製供の店舗では、1号店とは異なる惣菜の組み合わせで、異なる味付けの弁当を販売していることになる。そして、台北と七堵のほかにも、さらに4つの異なるバージョンが存在するというのだ。
 これはとんでもないことになった。台北製をひととおり食べただけでは、臺鐵便當を制覇したことにはならない。台北駅で食べた3個の臺鐵便當は、ほんのプロローグにすぎなかったのだ。6か所の調製所の弁当を全種類食べるのは難しいが、ベースとなる60元弁当は全調製所ののものを食べくらべておきたい。台湾一周旅行の課題が一気に増えて、「果たして胃袋が耐えられるだろうか?」という不安がこみ上げてきたのだった。
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単行本p.28


 旅は台北駅からスタート。臺鐵便當たべくらべ、バスターミナル弁当、駅二階フードコート、地下街で牛肉麺。初手から全力疾走で胃袋は大丈夫なのか。


第2章 西部幹線を南へ!
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 駅構内の店舗数は、必ずしも周辺の街の賑わい具合とは正比例しない。中歴駅のように賑やかな街で乗降者も多い駅の構内が意外なほど殺風景、ということもしばしば。反対に、鶯歌駅のように駅周辺の街は閑散としているのに駅構内が妙に発達していることもある。だから、自強号が停車する主要駅だけ降りて調査したのでは、なかなか台湾の駅なか事情をすることはできない。もちろんすべての駅を探訪することなど到底できないが、可能な限り多くの駅で降りてみる必要がある。
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単行本p.71


 いざ西へ、台中に向かって。板橋駅、鶯歌駅、桃園駅、埔心駅、苗栗駅、という具合に各駅で下車しては駅なか探索、ひたすら食べまくる。


第3章 台湾中西部と阿里山森林鉄路
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 日本ではお馴染みの“立ち食い”だが、海外ではなかなかお目にかかれない。韓国(釜山、大邱)では、一度も見かけなかった。香港では、街なかでは場末の車仔麺店などで何回か見かけたが、駅なかで巡り合ったのは一軒だけ。そしてここ台湾で、遂に初めて立ち食い席を擁する飲食店を発見したのだった。ちなみに、本書ではこの後に立ち食い席を備えた飲食店は登場しない。今回の旅で私が唯一邂逅した立ち食い店が、ここ高鉄台中駅の翰林茶棧だ。(中略)
 また彰化駅には、駅弁でも駅麺でもないが、たいへん珍しいスタイルの駅なか店舗があった。それは、島式ホーム上の島式店舗だ。3A・3Bホーム上に、売店“OKストア”と一体化した実演販売形式の紅豆餅(大判焼き)店がある。日本ではさして珍しくない光景だが、台湾にはこの立地の店舗がほとんどない。私が探訪した限りでは、高鉄やMRTも含めて、島式ホームの島式店舗はこの一軒だけだった。
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単行本p.91


 台中から台南へ。新烏日駅、員林駅、嘉義駅、そして阿里山森林鉄路を通って奮起湖駅へ。


第4章 南部の二大都市をゆく
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 高鉄台南駅の「深緑及水」で食べられなかったことが、悔やまれて仕方ない。帰国の飛行機に乗る前から、すでにモヤモヤとした再訪願望が渦巻いていた。帰国して、原稿を書き進めるうちにその願望はどんどん強まり、終いにはペンがまったく進まなくなってしまった。これは早々にもう一度台湾に行かないとダメだ。「深緑及水」のオープンは11月で、日付までは分からない。行くとしたら、12月。気づくと、私は12月12日出発の桃園行き航空券を手配していた。ここで再度取材に出るとなると、出版スケジュールが大幅に狂うことになる。それでも、行かずにはいられなかった。
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単行本p.112


 台南から高雄へ。台南駅、新左営駅、屏東駅、高雄駅。高雄の環状軽軌(ライトレール)駅もすべて探訪して食べまくる。帰国後も「これは早々にもう一度台湾に行かないとダメだ」と言い出すのも、みんなの“あるある”。


第5章 東海岸駅弁街道縦走録
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 10月に花蓮で購入した臺鐵便當と12月に台東で購入した臺鐵便當は、パッケージは同じだが内容が異なる。味付けはどちらも濃いめなのだが、排骨の質感は全然違う。同じ調製所で作られたものとは、ちょっと思えない。台東の臺鐵便當は紙箱だけ花蓮バージョンを使っていたと考えるのが自然なのではないだろうか。今さらながら本音を言うと、同日に花蓮と台東で60元弁当を購入すれば、明確な答えを導き出せたはずだ。2ヶ月のズレによって「時期による違い」の可能性が生じてしまったのだ。(中略)不完全燃焼のまま旅を終えることになってしまったのは、残念だ。本書内で明確な結論を示せないことを、お詫び申し上げたい。
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単行本p.153、154


 いよいよ折り返して東海岸を北上。金崙駅、台東駅、関山駅、池上駅、花蓮駅、福隆駅、猴硐駅。



第6章 台北近郊散歩、そして凱旋
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 決して強く印象に残る一杯ではなかった。「それだけに」と繋げてよいだろうか、食べている間じゅう、台湾を巡った日々が頭のなかを早送りで駆けてゆき、「旅はもう終わってしまうんだ」という実感がこみ上げてきた。旅先では、時間の経過がとても速く感じられる。その一方で、二週間前に桃園国際空港に降り立ったときの記憶が半年前のことのように感じる。(中略)旅はあっという間に終わってしまう。とてつもなく長いのに、あっという間なのだ。
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単行本p.185、186


 七堵駅、南港駅、松山駅、そしてついに台北への帰還。だが駅なかグルメの旅はさらに続く。地下鉄MRTの圓山駅、新北投駅、忠孝敦化駅、林口駅。空港でも食いまくる。帰国しても、大宮駅、錦糸町駅、熊谷駅、大阪阿部野橋駅、という具合に、国内で台湾駅弁&駅麺が食べられる店を探訪する日々が始まる。わかる。





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