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『亜宗教 オカルト、スピリチュアル、疑似科学から陰謀論まで』(中村圭志) [読書(オカルト)]

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 ニューエイジであれ、カスタネダであれ、それらは呪術(超常体験を引き起こす技とされるもの)に対する期待感というか、親和性のようなものが非常に強いことを特徴としている。「意識の変革」「意識の進化」という大義のためには、何であれ常識から離脱することが求められており、呪術ないしオカルトはこれにうってつけのテーマだった。あるいは単にオカルトがやりたくて、意識の変革を言い訳にしたものか。(中略)
 大事な点は、こうしたカルトに見られる曖昧なオカルト意識は、80年代~90年代初頭において一般社会も共有していたということだ。(中略)嘘ともホントともつかぬところを楽しむカスタネダ的著作やカスタネダ的読解を称揚する80年代の人文系の精神には、こうした落とし穴が待っていたのだ。
 やはり、物理的事実の話なのか、文化的解釈の話なのかといったような、この上なく野暮な追求は、いつの場合も欠かさないようにしたほうがいいのである。これがニューエイジ・ブームの最大の教訓だ。
 これはカルト問題を超えて、宗教一般にも、トランプ劇場のような政治的レトリックにも通ずる問題である。
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『第7章 ニューエイジ、カスタネダ、オウム真理教事件』より


 降霊術、妖精写真、動物磁気、骨相学、催眠術、千里眼、ファンダメンタリズム、UFO、エイリアンアブダクション、ニューエイジ思想、カスタネダ、オウム真理教、超能力、抑圧された記憶、シンクロニシティ、ポストモダン言説、臨死体験、レプティリアン陰謀論、Qアノン、新無神論。宗教研究者が、宗教に似ているが伝統宗教そのものではない思想潮流や流行言説を「亜宗教」としてまとめ、時代背景との関係を俯瞰してゆく近代オカルト史研究本。単行本(集英社インターナショナル)出版は2023年4月です。


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 人間はいつでも個人的に思索をおこなっているが、たいていそうした考えは夢想的なもので、それがしかるべきチェックを受けることなく社会に出てくれば、疑似科学やオカルトになる。そのうちのいくつかはブームを呼び、「新時代がはじまった」と喧伝されるが、やがてマンネリ化し、勢力を失っていく。
 亜宗教が人間の知恵の発展に積極的に寄与することは概ねないと言えるだろうが、しかし、人類思想史の裏側を教えてくれるという意味で、貴重な情報アーカイブとなっているのである。
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『序章 宗教と科学の混ざりもの』より




目次

序章 宗教と科学の混ざりもの

第1部 西洋と日本の心霊ブーム 19→20世紀
 第1章 19~20世紀初頭の心霊主義
 第2章 コックリさんと井上円了の『妖怪学講義』
 第3章 動物磁気、骨相学、催眠術──19世紀の(疑似)科学
 第4章 明治末の千里眼ブームと新宗教の動向
 補章 伝統宗教のマジカル思考

第2部 アメリカ発の覚醒ブーム 20→21世紀
 第5章 ファンダメンタリストとモンキー裁判
 第6章 UFOの時代──空飛ぶ円盤から異星人による誘拐まで
 第7章 ニューエイジ、カスタネダ、オウム真理教事件
 第8章 科学か疑似科学か?──ESP、共時性から臨死体験まで
 終章 陰謀論か無神論か? 宗教と亜宗教のゆくえ




第1部 西洋と日本の心霊ブーム 19→20世紀
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 宗教が退潮に向かう19世紀において、科学の周縁にありつつ民衆的願望に沿う形で再組織された亜宗教・疑似科学的営為という形で、さまざまなものが芋づる式に存在していたのである。そこには主流派の「宗教」に対しても「科学」に対しても批判的な目を向けるという側面もあった。
 この構図には時代を超えた普遍性があるので、20世紀後半に、ニューサイエンスやポストモダン言説、さらに各種の疑似科学の百花繚乱という形で反復されることになる。
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 19世紀から20世紀にかけての亜宗教として心霊主義や千里眼、新宗教などを取り上げ、そこに含まれている、現代にも通じる構造を読み解いてゆきます。




第2部 アメリカ発の覚醒ブーム 20→21世紀
第5章 ファンダメンタリストとモンキー裁判
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 都会や大学の知識人たちは、裁判の動向に興味津々ではあったが、時代遅れのファンダメンタリズムなど、やがて淘汰され消えていくものだと考えていた。
 しかし、すでに述べたように、根っこには南北戦争以来の怨恨があり、また、大学出のエリートが民衆に理解できない議論をすることへの、あるいは、科学の恩恵を受けた産業資本家たちが社会にのさばっていることへの憤懣もたまっていたわけだから、「科学の進歩ともとに迷妄は打ち払われる」と断言できるほど単純なものではなかったのだ。
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 公立学校で進化論を教えた教師が訴えられたスコープス裁判が全米の注目を集めたのはなぜか。「宗教と科学の衝突」とまとめられることが多いこの問題が、それほど単純なものではないことを解説します。




第6章 UFOの時代──空飛ぶ円盤から異星人による誘拐まで
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 このように、科学的説明は、自分が自分固有のものだと感じている日々の体験から、自分特有の個性のオーラを奪ってしまうのだ。
 かくしてあなたの体験の固有性、あなた自身の個性を保証するものとして、一つの科学的ではない説明、すなわち、あなたの受けた感触の起源を異星人による誘拐と人体実験というまったく風変わりな事象に帰する説明が、この上なく魅力的なものとなるのである。(中略)
 どうやら人間とは、事実やら「不都合な真実」なんかのために生きている動物ではないのだ。自分という存在に深い満足を感じたいがために生きている。
 思い入れ、アイデンティティ、自己満足、安心立命――なんでもいいが、そういった「実存」的なもののために生きているのである。
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 空を飛ぶ正体不明なものを見た、政府は重大な秘密を隠している、一般人がアブダクションされ生体実験の被害を受けている。これら本質的には無関係な主張がUFOの名のもとにひとつに結びつけられるのはなぜか。その背後にある構造と時代背景との関係に迫ります。




第7章 ニューエイジ、カスタネダ、オウム真理教事件
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 標榜される意識の変革には、一方には政治的・社会的批判という側面が、他方には宗教的な回心の側面が、さらにその裏には、呪術的な奇跡待望(オカルト志向)の側面があるのだった。悟りのようなものが呪術のようなものと連動しているのは、密教などの場合と同じだ。意識の変革はしばしば「意識の進化」として捉えられたが、この場合の進化は神智学や心霊主義で説かれる輪廻転生による魂の進化の形をとった。そこにはダーウィンの生物進化論に対する疑似科学的な曲解の要素もあった。
 このように、非常にピュアなところのあるニューエイジのマインドには、けっこう子どもじみた魔法信仰が絡みついていたと言えるだろう。魔法信仰は欲得ずくにもなりやすく、資本主義を批判したわりには霊感商法型の資本主義に弱いところをもっていた。(中略)
 かくしてニューエイジは、思想的な力は失ったが、文化のスタイルとしては主流文化に十分入り込むことができたし、キリスト教会や一神教の懐疑、瞑想系の東洋宗教や自然崇拝系の原始宗教の再評価というレガシーにも巨大なものがある。いまの時代は、欧米のみならず日本も含め、薄められた広い意味でのニューエイジ文化のなかにとっぷり浸かっていると言っていい。
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 ニューエイジ運動とは何だったのか。東洋宗教や瞑想、オカルト、ニューサイエンス、ドラッグカルチャー、カウンターカルチャー、そしてサブカルチャーまでを包含する曖昧な20世紀の思想潮流を読み解き、現代につながる流れを可視化します。




第8章 科学か疑似科学か?──ESP、共時性から臨死体験まで
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 伝統社会や現代社会に流通している社会的「実在」ばかりでなく自然科学の扱う物理的「実在」も根本的には社会の言説が生み出したイデオロギー的構築物にすぎない、と断定的に言い切る風潮がこの時代にはたしかにあった。これは呪術や宗教の迷信と自然科学の論文を等価に扱うもので、このあたりの曖昧な思考は、論者自身の大胆なレトリック――科学用語をいい加減に扱って平気であるような不敵さ――の根拠の一つとなっていたように見受けられる。(中略)
 21世紀になって振り返ってみると、こうした動向は、西洋文化を一掃しようとする極端なイスラム主義者や、ロシア愛国主義者、独裁的な中国共産党、根拠なき陰謀論を垂れ流して平気なトランプ主義者といったあらゆる相対主義的文化防衛論者の台頭へ地ならしをしていたように見える。
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 自然科学で扱う「事実」や「実在」も所詮は社会的構築物であり「現実」は合意によって作られているとする立場、そして文化や世界認識はどれが正しいというものではなく相対的なものに過ぎないとする相対主義。それらがどのように台頭し、批判され、そして現代に影響しているのかを読み解きます。




終章 陰謀論か無神論か? 宗教と亜宗教のゆくえ
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 無神論の世代が自らの抱える盲点によって、今後、「ニューエイジ」「ポストモダン」「ポストトゥルース」に次ぐ新たな「亜宗教」を構成することは考えられるし、それが漠然たる信仰に頼っている旧世代との間に知の分断をつくるということも考えられるかもしれない。(中略)
 未来のことは誰にもわからない。亜宗教の歴史から学んだことは、ひとつの文化勢力はいつも(少女のたてたラップ音や飛行物体の勘違いのような)突拍子もないところからはじまるということだ。
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 19世紀から今日に至るまでの亜宗教史から、これからの亜宗教の行方について考えます。





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