『穢れの町 アイアマンガー三部作2』(エドワード・ケアリー:著、古屋美登里:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]
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誰しも子供時代に、妙に真っ直ぐな小枝や、美しい青緑色のガラスの欠片、つるつるした丸い石、錆びた歯車、ごっこ遊びに最適な細さと長さの鉄パイプなどを見つけ、持ち帰ったことがあるだろう。手にした瞬間、まるで物と自分が運命で紐付けられているような気分になったはずだ。(中略)けれど物との運命の糸は、大人によって捨てられ、あるいは自分自身が大人になってしまうことで、ぷつんと切れ、あのがらくたは遠い過去の物、ただのゴミになる。子供の目には価値があるのに、大人になると見えなくなる物たち。がらくた、役に立たないゴミ、当たり前すぎて素通りしてしまう、いつもの道具。
そうやってうずたかく積まれた屑山の頂に、エドワード・ケアリーは立っている。これまでも、寄る辺ない孤独を抱える切実で繊細な存在を描き続けた作家が、ペンを取り声をあげ、お話を語りはじめる。すると、がらくたたちは息を吹き返す。たちまち古道具やゴミ屑はケアリーの体にくっつき、どんどん膨らみ巨大になって、物語は轟音を立てながら動き出す。
私たちは夢に見たことがある。お気に入りのぬいぐるみが、石鹸が、ティーポットが、ボタンが、コインが、ぺちゃくちゃとおしゃべりする場面を。そして今、アイアマンガー三部作を読むことによって、夢が現実になったことを知るのだ。
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単行本p.364
19世紀後半、英国ロンドン郊外に広がっている巨大ゴミ捨て場。その中にロンドン中のゴミを支配するアイアマンガー家の屋敷「堆塵館」があった。そしてごみ捨て場の外側には「穢れの町」ことフィルチングが位置している。金貨に姿を変えたアイアマンガー家の少年、ボタンとなってゴミ山に捨てられた少女、穢れの町で再会した二人は、アイアマンガー家に反旗を翻す決意を固めるが……。
ゴミを支配する奇怪で魅力的な一族を描くアイアマンガー三部作、その第二部。単行本(東京創元社)出版は2017年5月、Kindle版配信は2017年5月です。
ロンドン中のゴミが集められたゴミ山、そのなかに建てられた超巨大ゴミ屋敷で暮らすアイアマンガー家。人々は彼らを忌み嫌い、恐れ、憎んでいるが、その財力と権力には誰も逆らえない。ゴミを通じてロンドンを支配する一族という奇抜な設定から、とてつもなくグロテスクで汚らしく、同時に美しくも愛おしい、不思議な世界が展開してゆきます。この不快で忌まわしく、でも気になって仕方のない不思議な魅力を持つ一族が住んでいる館、堆塵館が第一部の舞台でした。ちなみに紹介はこちら。
2019年06月17日の日記
『堆塵館 アイアマンガー三部作1』(エドワード・ケアリー)
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2019-06-17
続編である本書では、金貨に姿を変えられてしまった少年クロッドと、ボタンとなって捨てられた少女ルーシー、二人がそれぞれ「穢れの町」ことフィルチングで繰り広げる冒険が描かれます。ゴミ屋敷の中で終始する息の詰まるような閉塞感に満ちた前作から、いきなりオープンワールドに放り出される二人。背後からは、アイアマンガー家おかかえの狩人たち、警察、殺人鬼など、凶悪な敵が迫ってきて、ひたすら逃げ回る展開に。
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今日、十シリング金貨がなくなったことを知らされた。それはただの金貨じゃない。クロッドというアイアマンガーで、優れた能力があるのに、一族に従わずに物に変えられたという。わたしはその人物を探してここに連れてくるように命じられた。「その子は姿を変えられるの?」とわたしが訊くと、「できない」という返事だった。「いまのところはまだ身につけていない。しかし物に関する知識は生まれつきものすごいということだ。どうしても捕まえなければならない」
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単行本p.100
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「よく聞くんだ、クロッド・アイアマンガー。よく聞けよ。おれが穢れの町にこっそりやってきた目的はただひとつ。たとえどんなに引っ張られ引き伸ばされても決して揺らぐことのなかった目的。おれが動じないのは、その目的があるからだ。それはな、この汚らしい町の通りを歩きまわり、アイアマンガーを見つけたら鋭い物で突き刺し、そいつがたったひとりで人気のない通りで倒れて死ぬのを見ることなんだよ。奴らは大勢の者たちに同じことをしてきたんだ。しかし、実を言えば、純血アイアマンガーはめったに手に入らなかった。おれは復讐の鬼なんだよ、クロッド・アイアマンガー」
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単行本p.152
様々な敵がクロッドを追いつめてゆきます。そして明かされるアイアマンガー家の邪悪な陰謀(だろうと思ってた)。それを止められるのはただ一人……。
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「奴らはやめないぞ、クロッド・アイアマンガー、おまえがいなくなっても続けていくぞ。ずっとひどいことを続け、もっと強くなっていくんだ。そして奴らは、贋人間の軍隊を引き連れてロンドンに乗り込むつもりだ。さらに国全体に、さらにはヨーロッパに向かう。結局は、おまえたちは見つかってしまうだろうな。いきなり、奴らがおまえたちの前に現れるんだ」
「ぼくの一族が」
「おまえの一族がな」
「だったら、あの人たちを止めなければならないと思います。あなたがそれをしなくてはならない。あなたこそがそれをする人です」
「おれはもうそんなに強くない」
「あなたがだめなら、だれがするんです?」
「だれがするんだろうな、クロッド・アイアマンガー」
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単行本p.169
正直、クロッドじゃ駄目だろうな、英国終わったな、と読者は思うわけですが、しかしクロッドは一人じゃない。勇ましい味方がついているのです。
――――
「わたしはクロッドを探す。クロッドはきっとわたしを待ってる。わたしがいなければなんにもできないんだから。本当になんにもできないの、あの弱虫は。ああ、早く会いたい」
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単行本p.127
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わたしは黙ってやられるつもりはないわよ。そいつの口のなかに黙って入るつもりはない。とんでもない、そいつに飲み込まれそうになったら、バシバシ殴りつけてやる。痛い思いをさせてやる。死にものぐるいで傷つけてやる。わたしをだれだと思ってるの。残虐なルーシー・ペナントよ。なんだってやってやる。
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単行本p.267
――――
「戦うためにわたしたちが立ち上がらなければ、正しいことがなくなってしまう」わたしは言った。
「私たちは死ぬまで屋根裏で縮こまって暮らしていくことになる。みんな暗がりのなかにひっそり隠れていて、そのうちひとり、またひとりと、ウンビットとその仲間に見つけられては殺されていく。これまでに何百人もの人たちが抵抗できずにそれを受け入れてきたのよ。みんな飢えに飢えて、自分の子供たちを売って。でもそんなこと、もうさせちゃいけない。立ち上がらなければ。もうこれ以上、あの人たちの好きにさせちゃいけない。わたしたちの、戦う集団を作るの」
――――
単行本p.292
クロッドとルーシーが力を合わせれば(というかルーシーがクロッドの尻を蹴飛ばし続ければ)、もしかしてアイアマンガーの一族に対抗できるかも、という読者の淡い期待をよそに、ヴィクトリア女王がさっさと先手を打ってきます。アイアマンガーもろとも面倒なゴミはすべて焼き尽くしてしまいなさい。
――――
本日、議会は以下のことに同意することを正式に決議した。フォーリッチンガム区は可及的速やかに、徹底的に、絶対的な非情な手段により、灰塵に帰されることとする。火熱がそこにあるすべての菌を滅消するまで破壊する。
本決議は、右記のごとく緊急性を要するために、可及的速やかに遺漏なく実行されるものとする
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単行本p.286
たちまち始まるロンドン大火。逃げまどう住民たち。壁をなぎ倒し爆発的に集結するゴミの山。ロンドン反攻を企てるアイアマンガー。彼らの拠点をすべて破壊せんとする女王。とてつもない大混乱に巻き込まれたクロッドとルーシーの命運やいかに。というところで、またもや「続く」になるという、非道。
誰しも子供時代に、妙に真っ直ぐな小枝や、美しい青緑色のガラスの欠片、つるつるした丸い石、錆びた歯車、ごっこ遊びに最適な細さと長さの鉄パイプなどを見つけ、持ち帰ったことがあるだろう。手にした瞬間、まるで物と自分が運命で紐付けられているような気分になったはずだ。(中略)けれど物との運命の糸は、大人によって捨てられ、あるいは自分自身が大人になってしまうことで、ぷつんと切れ、あのがらくたは遠い過去の物、ただのゴミになる。子供の目には価値があるのに、大人になると見えなくなる物たち。がらくた、役に立たないゴミ、当たり前すぎて素通りしてしまう、いつもの道具。
そうやってうずたかく積まれた屑山の頂に、エドワード・ケアリーは立っている。これまでも、寄る辺ない孤独を抱える切実で繊細な存在を描き続けた作家が、ペンを取り声をあげ、お話を語りはじめる。すると、がらくたたちは息を吹き返す。たちまち古道具やゴミ屑はケアリーの体にくっつき、どんどん膨らみ巨大になって、物語は轟音を立てながら動き出す。
私たちは夢に見たことがある。お気に入りのぬいぐるみが、石鹸が、ティーポットが、ボタンが、コインが、ぺちゃくちゃとおしゃべりする場面を。そして今、アイアマンガー三部作を読むことによって、夢が現実になったことを知るのだ。
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単行本p.364
19世紀後半、英国ロンドン郊外に広がっている巨大ゴミ捨て場。その中にロンドン中のゴミを支配するアイアマンガー家の屋敷「堆塵館」があった。そしてごみ捨て場の外側には「穢れの町」ことフィルチングが位置している。金貨に姿を変えたアイアマンガー家の少年、ボタンとなってゴミ山に捨てられた少女、穢れの町で再会した二人は、アイアマンガー家に反旗を翻す決意を固めるが……。
ゴミを支配する奇怪で魅力的な一族を描くアイアマンガー三部作、その第二部。単行本(東京創元社)出版は2017年5月、Kindle版配信は2017年5月です。
ロンドン中のゴミが集められたゴミ山、そのなかに建てられた超巨大ゴミ屋敷で暮らすアイアマンガー家。人々は彼らを忌み嫌い、恐れ、憎んでいるが、その財力と権力には誰も逆らえない。ゴミを通じてロンドンを支配する一族という奇抜な設定から、とてつもなくグロテスクで汚らしく、同時に美しくも愛おしい、不思議な世界が展開してゆきます。この不快で忌まわしく、でも気になって仕方のない不思議な魅力を持つ一族が住んでいる館、堆塵館が第一部の舞台でした。ちなみに紹介はこちら。
2019年06月17日の日記
『堆塵館 アイアマンガー三部作1』(エドワード・ケアリー)
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2019-06-17
続編である本書では、金貨に姿を変えられてしまった少年クロッドと、ボタンとなって捨てられた少女ルーシー、二人がそれぞれ「穢れの町」ことフィルチングで繰り広げる冒険が描かれます。ゴミ屋敷の中で終始する息の詰まるような閉塞感に満ちた前作から、いきなりオープンワールドに放り出される二人。背後からは、アイアマンガー家おかかえの狩人たち、警察、殺人鬼など、凶悪な敵が迫ってきて、ひたすら逃げ回る展開に。
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今日、十シリング金貨がなくなったことを知らされた。それはただの金貨じゃない。クロッドというアイアマンガーで、優れた能力があるのに、一族に従わずに物に変えられたという。わたしはその人物を探してここに連れてくるように命じられた。「その子は姿を変えられるの?」とわたしが訊くと、「できない」という返事だった。「いまのところはまだ身につけていない。しかし物に関する知識は生まれつきものすごいということだ。どうしても捕まえなければならない」
――――
単行本p.100
――――
「よく聞くんだ、クロッド・アイアマンガー。よく聞けよ。おれが穢れの町にこっそりやってきた目的はただひとつ。たとえどんなに引っ張られ引き伸ばされても決して揺らぐことのなかった目的。おれが動じないのは、その目的があるからだ。それはな、この汚らしい町の通りを歩きまわり、アイアマンガーを見つけたら鋭い物で突き刺し、そいつがたったひとりで人気のない通りで倒れて死ぬのを見ることなんだよ。奴らは大勢の者たちに同じことをしてきたんだ。しかし、実を言えば、純血アイアマンガーはめったに手に入らなかった。おれは復讐の鬼なんだよ、クロッド・アイアマンガー」
――――
単行本p.152
様々な敵がクロッドを追いつめてゆきます。そして明かされるアイアマンガー家の邪悪な陰謀(だろうと思ってた)。それを止められるのはただ一人……。
――――
「奴らはやめないぞ、クロッド・アイアマンガー、おまえがいなくなっても続けていくぞ。ずっとひどいことを続け、もっと強くなっていくんだ。そして奴らは、贋人間の軍隊を引き連れてロンドンに乗り込むつもりだ。さらに国全体に、さらにはヨーロッパに向かう。結局は、おまえたちは見つかってしまうだろうな。いきなり、奴らがおまえたちの前に現れるんだ」
「ぼくの一族が」
「おまえの一族がな」
「だったら、あの人たちを止めなければならないと思います。あなたがそれをしなくてはならない。あなたこそがそれをする人です」
「おれはもうそんなに強くない」
「あなたがだめなら、だれがするんです?」
「だれがするんだろうな、クロッド・アイアマンガー」
――――
単行本p.169
正直、クロッドじゃ駄目だろうな、英国終わったな、と読者は思うわけですが、しかしクロッドは一人じゃない。勇ましい味方がついているのです。
――――
「わたしはクロッドを探す。クロッドはきっとわたしを待ってる。わたしがいなければなんにもできないんだから。本当になんにもできないの、あの弱虫は。ああ、早く会いたい」
――――
単行本p.127
――――
わたしは黙ってやられるつもりはないわよ。そいつの口のなかに黙って入るつもりはない。とんでもない、そいつに飲み込まれそうになったら、バシバシ殴りつけてやる。痛い思いをさせてやる。死にものぐるいで傷つけてやる。わたしをだれだと思ってるの。残虐なルーシー・ペナントよ。なんだってやってやる。
――――
単行本p.267
――――
「戦うためにわたしたちが立ち上がらなければ、正しいことがなくなってしまう」わたしは言った。
「私たちは死ぬまで屋根裏で縮こまって暮らしていくことになる。みんな暗がりのなかにひっそり隠れていて、そのうちひとり、またひとりと、ウンビットとその仲間に見つけられては殺されていく。これまでに何百人もの人たちが抵抗できずにそれを受け入れてきたのよ。みんな飢えに飢えて、自分の子供たちを売って。でもそんなこと、もうさせちゃいけない。立ち上がらなければ。もうこれ以上、あの人たちの好きにさせちゃいけない。わたしたちの、戦う集団を作るの」
――――
単行本p.292
クロッドとルーシーが力を合わせれば(というかルーシーがクロッドの尻を蹴飛ばし続ければ)、もしかしてアイアマンガーの一族に対抗できるかも、という読者の淡い期待をよそに、ヴィクトリア女王がさっさと先手を打ってきます。アイアマンガーもろとも面倒なゴミはすべて焼き尽くしてしまいなさい。
――――
本日、議会は以下のことに同意することを正式に決議した。フォーリッチンガム区は可及的速やかに、徹底的に、絶対的な非情な手段により、灰塵に帰されることとする。火熱がそこにあるすべての菌を滅消するまで破壊する。
本決議は、右記のごとく緊急性を要するために、可及的速やかに遺漏なく実行されるものとする
――――
単行本p.286
たちまち始まるロンドン大火。逃げまどう住民たち。壁をなぎ倒し爆発的に集結するゴミの山。ロンドン反攻を企てるアイアマンガー。彼らの拠点をすべて破壊せんとする女王。とてつもない大混乱に巻き込まれたクロッドとルーシーの命運やいかに。というところで、またもや「続く」になるという、非道。
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