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『終わりなき戦火(老人と宇宙6)』(ジョン・スコルジー、内田昌之:翻訳) [読書(SF)]

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「〈均衡〉はただの楽しみでこんなことをしているわけではない。ニヒリストでもないんだし。なにか意味があるはず。なにか計画があるはず。これはなにかにつながるはず」
「“すべての物事の終わり”につながるんだ。もっとふつうに言うと、コロニー連合とコンクラーベのどちらか、あるいは両方がばらばらになって、このあたりの宙域にいるすべての種族が常におたがいに戦争をしている状態に戻るということだ」
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文庫版p.423


 〈均衡〉と名乗る謎の組織の暗躍により地球とコロニー連合は決裂、さらにコロニー連合に属する惑星は次々と反乱を企てつつあった。一方、エイリアン種族同盟である「コンクラーベ」も、人類への対処をめぐって分裂の危機に陥る。事態が悪化して手のつけようがなくなってから面倒事を押し付けられるハリー・ウィルスン中尉の外交チームは、いつもの通り、宇宙に迫る「すべての物事の終わり」に立ち向かうことになった。「老人と宇宙」セカンドシーズン最新刊。文庫版(早川書房)出版は2017年3月、Kindle版配信は2017年3月です。


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「繰り返しますが、コロニー連合の破壊はその計画の一部ではあります。しかし、それはほぼ二次的なことです。わたしたちは〈均衡〉がコンクラーベを破壊するために利用する梃子です。この組織がいままでやってきたことは、地球ステーションの破壊も含めて、なにもかもその目標へ向かう活動の一環なのです」
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文庫版p.440


 主人公をハリー・ウィルスン中尉にバトンタッチ、ストーリーの焦点をドンパチよりも外交に置いた(「バビロン5」っぽい)セカンドシーズンに突入した「老人と宇宙」シリーズ。その最新巻は、〈均衡〉の暗躍により、コロニー連合が苦境に立たされた状況から始まります。

 まずは地球との関係は最悪の状況に。


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「地球はコロニー連合を心底憎んでいて、われわれを邪悪な存在とみなし、全員死んでくれと願っている。彼らにとってもっとも重要な宇宙への出発点だった地球ステーションが崩壊したのはわれわれのせいだと考えているのだ。われわれが手をくだしたのだと」
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文庫版p.38


 そして、コロニー連合に属する各植民惑星は、次々と反乱を起こしつつあります。


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「コロニー連合はファシストもどきのクソですよ、ボス。そんなことは地球を離れるためにやつらの船に足を踏み入れた最初の日からわかっていました。だってありえないでしょう? やつらは貿易を支配しています。通信を支配しています。コロニーの自衛を許さず、コロニー連合をとおさないかぎりどんなことも勝手にはさせないんです。それに、地球に対してやってきたことは忘れられません。何世紀もずっとですよ。ねえ、中尉。いま内戦が起きているとしても驚くことじゃありません。もっと早く起きなかったことのほうが驚きです」
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文庫版p.378


 その一方で、エイリアン種族同盟であるコンクラーベも、分裂の危機にさらされていました。


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「ガウ将軍が退陣させられることになったら、コンクラーベの中心が崩壊する。それでもこの同盟は存続する? しばらくのあいだは。でも、空虚な同盟でしかないし、すでにあちこちで生まれている派閥は離れていく。コンクラーベは分裂し、それらの派閥がまた分裂する。そして、なにもかも元のもくあみになる。わかるのよ、ハフト。現時点ではほとんど避けようがないわ」
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文庫版p.175


 こうなると外交努力でどうなるという状態ではないのですが、それでも何とかしなければならないのが、われらがハリー中尉が属するコロニー連合外交チーム。

 というわけで、四つの連作中篇から構成される長篇という形式で、コロニー連合最大の危機が描かれることになります。


『精神の営み』
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ぼくは孤独だった。生き延びるためにはやつらにすがるしかなかった。そして怯えていた。
 それでも、ぼくは支配されるつもりはなかった。
 たしかに隔離されてはいた。たしかに怖くてたまらなかった。
 でも、すごく、すごく怒ってもいた。
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文庫版p.82

 〈均衡〉の襲撃により捉えられたパイロットは、生きたまま脳を摘出され宇宙船につながれる。文字通り手も足も出ない状況で〈均衡〉への服従を強いられた彼は、だが不屈の精神で反撃の機会をうかがう。


『この空虚な同盟』
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「どの選択肢を選んでも、あなたを排除するための投票につながります。それが現実になるとき、すべてが崩壊するのです」
「以前はもっと簡単だったのだがな――コンクラーベの運営は」
「それはあなたがまだコンクラーベを築いている最中だったからです。築いているものが存在していないときのほうが、野心あるリーダーでいるのは容易です。しかし、コンクラーベが存在しているいま、あなたにはもはや野心はありません。今のあなたは、ただの役人の親玉にすぎないのです。役人が畏怖の念を呼び起こすことはありません」
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文庫版p.199

 人類への対処をめぐって分裂の瀬戸際にあるコンクラーベ。リーダーであるガウ将軍とその副官ハフト・ソルヴォーラは、危機を回避、少なくとも先送りすべく政治的努力を続けていたが、見通しは暗かった。


『長く存続できるのか』
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「例の〈均衡〉の一件は、こうやって住民の行動を具体化させているかもしれないが、その原因になったものは何年もまえから存在していたんだ」
「だったらコロニー連合は何年もまえからこの事態にそなえているべきだったのよ」パウエルはすでにこの会話に退屈していた。「そうしなかったから、いまわたしたちやテュービンゲン号のみんながバカげた内輪の危機を次々と巡り歩くはめになってる。こんなのバカげているしムダだわ」
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文庫版p.346

 反乱鎮圧、議会封鎖、脅迫、暗殺、空爆。あらゆる手段を用いてコロニー連合からの離脱を阻止しようとするコロニー防衛軍。だがあまりの強硬姿勢に住民は反発。それどころか鎮圧任務を遂行するヘザー・リー中尉ですら疑問を抱く。すでにコロニー連合の命運は尽きているのではないか。


『生きるも死ぬも』
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「あなたは何を望んでいるのですか?」ローウェンがたずねた。
「わたしがなにを望んでいるか?」ソルヴォーラは同じ言葉で応じると、人間の大使たちに向かってぐっと身を乗り出し、自分がおれたちの種族と比べてどれほど大きな生物であるか、そしてどれほど憤慨しているかを強調した。「あなたについて考えずにすむことを望んでいますよ、ローウェン大使! あるいはあなたについて、アブムウェ大使! あるいは人類について。これっぽっちも。理解できますか、女性大使の方々? あなたがたの種族にどれほどうんざりさせられているかを? わたしの時間のどれだけが人間たちの相手で失われているかを?(中略)もしも魔法で人類を消し去ることができるなら、わたしはそうするでしょう。ただちに」
「妥当な判断ですね」おれは言った。
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文庫版p.485

 ついに明らかになった〈均衡〉の恐るべき計画。だが、阻止するためにはコロニー連合、地球、コロニー惑星群、そしてコンクラーベ、そのすべてが協力する必要があった。互いに対する不信と反目に満ちた各勢力を、ハリー中尉たちのチームはまとめあげることが出来るのか。今、宇宙の歴史は最大の政治的試練に直面していた。セカンドシーズンいきなりのクライマックス。


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