『日本の中でたのしく暮らす』(永井祐) [読書(小説・詩)]
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窓の外のもみじ無視してAVをみながら思う死の後のこと
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大みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている1万円
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『とてつもない日本』を図書カードで買ってビニール袋とかいりません
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都会で孤独に生きる若者の寒々しいリアルを詠み続ける都市生活歌集。単行本(BookPark)出版は2012年5月です。
「季節のうつろい」であるとか「秘めた恋心がどうのこうの」といったことを詠むのがふつうの短歌、という古くさい偏見を捨てきれないでいるのですが、そういうのぶっ飛ばしてくれる歌集です。
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窓の外のもみじ無視してAVをみながら思う死の後のこと
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あ、季節とか、恋とか、関係ないんで。ぼくが生きてるリアルはそういうのじゃないんで。目をあわせないまま、もぐもぐとそうつぶやいているような感じ。でも、絶対に譲らない、合わせない、最後まで自分の都市生活実感をうたう。そんな若さがまぶしい。まぶしくない。
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リクナビをマンガ喫茶で見ていたらさらさらと降り出す夜の雨
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大みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている1万円
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昨日と今日の睡眠時間を足してみる足してみながらそば屋へ向かう
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この圧倒的な生活感。どうにもやるせない気持ちになります。仕事も、虚ろな明るさに満ちた感じで、しんどい。
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はじめて1コ笑いを取った、アルバイトはじめてちょうど一月目の日
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三十代くらいのやさしそうな男性がぼくの守護霊とおしえてもらう
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次の駅で降りて便所で自慰しよう清らかな僕の心のために
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心を癒してくれる動物を詠んだ作品もありますが、やっぱりこういうことに。
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寒いと嫌なことの嫌さが倍になる気がする動物の番組を見る
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ミケネコがわたしに向けてファイティングポーズを取った殺しちまうか
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思い出を持たないうさぎにかけてやるトマトジュースをしぶきを立てて
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淡々とした日々の暮らしを詠んだ作品も、ユーモラスなのに笑えない。というか、寒々とした心象風景を前に、思わず立ちすくむような、真顔のまま乾いた笑いでその場をしのいでいるような気持ちになります。
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『とてつもない日本』を図書カードで買ってビニール袋とかいりません
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グーグルの検索欄にてんさいと書いて消すうんこと書いて消す
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今日は寒かったまったく秋でした メールしようとおもってやめる する
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さて義務をはたさなきゃコーヒーを買いさて義務をはたさなきゃコーヒーを飲んだら
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というわけで、リアルな都市生活実感を直球でぶつけてくる作品ぞろい。いたたまれないような気持ちになる、でも不快ではなく、むしろ若々しさに対する敬意のようなものを感じてしまう、いやそれは本当なんですよ、そして最後まで読んでからタイトルが実に挑発的だということに気づく。そんな歌集です。
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