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『謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』(栗田昌裕) [読書(サイエンス)]

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私にしかできない調査をしたいと願い、全国を巡りながらアサギマダラの謎の探求に尽力して10年の歳月を費やしました。その間、個人で13万頭余のアサギマダラにマーキングを施し、気づけば、一番多くのアサギマダラに出会った人となっていました。
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Kindle版No.27

 定期的に海を渡ることが標識調査で証明されている唯一の蝶、アサギマダラ。1000Kmを超える「渡り」を繰り返すのはなぜか。アサギマダラの研究を続けてきた著者がその魅力を情熱的に語る一冊。単行本(PHP研究所)出版は2013年9月、Kindle版配信は2015年1月です。


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 アサギマダラはタテハチョウ科の蝶で、大きさはアゲハチョウほどの大きさです。
 重さは0.5グラムにも満たないほどの軽い蝶で、普通にふわふわと飛んでいるだけに見えますが、何と春と秋には1000Kmから2000Kmもの旅をします。
 定期的に国境と海を渡ることが標識調査で証明された蝶は世界に一種しかありません。
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Kindle版No.14


 渡りをする蝶、アサギマダラ。その生態に関する調査研究の成果を示す本です。一読して驚かされるのは、何よりもまず、アサギマダラに対する著者の惚れ込みっぷり。


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私にしかできない調査をしたいと願い、全国を巡りながらアサギマダラの謎の探求に尽力して10年の歳月を費やしました。その間、個人で13万頭余のアサギマダラにマーキングを施し、気づけば、一番多くのアサギマダラに出会った人となっていました。
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Kindle版No.27

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筆者は、福島、群馬、長野、愛知、大分、鹿児島、沖縄の各県の主要拠点を選び、各地での特徴的な現象を観察・比較しながら、年間約1万~2万頭の標識を行うことにのめり込んでいきました。
 そこでは自己再捕獲も追求し、個体数の推計を行い、移動現象を全国的な規模で数量的・包括的にとらえることをテーマとしました。
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Kindle版No.1027


 アサギマダラを捕獲して、マークを付けてから解放し、別の生息地に移動しながらマークを確認してゆくことで「渡り」のデータを集める。この地味な作業を毎年1万個体以上くりかえし、それを10年続けてきたというのです。その熱意には頭が下がります。


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2010年までのデータに基づいて、筆者の11万頭を超える標識活動の過半数を占める6万頭以上を標識した福島県デコ平でのアサギマダラの調査の概略を示しました。(中略)
連続1カ月の調査結果に、再捕獲を想定した数理解析を用いると、動的変動を定量的に考察することが可能となります。(中略)
その解析結果の一部を紹介し、飛翔パターン24種分類と移動兆候8種を提案し、夏の高原での滞在が成熟期間になっていることも示唆し、成熟が終わると旅立ちが始まることも示しました。
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Kindle版No.1680


 渡りパターンの数理解析から、飛翔行動の詳細分類まで、アサギマダラに関するありとあらゆる情報が詰まっています。著者のアサギマダラ愛とどめもなくあふれ、論文調だった文体も次第にラブレターの領域へと近付いてゆきます。


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 私がアサギマダラをマーキングしながら10年近く行ってきたのは「心を探る旅」でした。それは、人間にもアサギマダラにも通用するような、生命すべてにとっての「心の世界の法則を探る旅」だったのです。(中略)
これはアサギマダラが「確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を超えようとして生きている存在である」ことを示唆していると感じられたのです。
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Kindle版No.2180


 もはやアサギマダラは、単なる蝶ではなく「自然」あるいは「生命」の象徴となり、著者の情熱がほとばしります。


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 私が提起したいのは、「確率に従いながら確率を超えようとする性質」が、実は地球上のすべての生き物に共通な特徴なのではないかという問いかけです。
 アサギマダラは自然を見る窓、自然を映し出す鏡です。
 アサギマダラを観察すると、周囲の自然がよくわかってきます。地球の天候や気象との関わり、周囲のさまざまな生き物との関わり、温暖化の影響、外来生物との関係、など、アサギマダラを通して、地球の自然の状況をよりよく理解できるとよいと願っています。
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Kindle版No.2187


 というわけで、アサギマダラの研究を通して自然を見つめる本。昆虫とくに蝶、あるいは生物の「渡り」全般に興味がある方にお勧め。

 ですが、個人的にはむしろ「特定の生物種に惚れ込んだ著者が、冷静で学術的な書物にしようと筆に抑制をかけて書き始めたものの、次第に自らの情熱だだ漏れになってしまい、もう止められない止まらない」というオーバードライブ感がたまらない特定生物偏愛本として楽しみました。


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