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『小説神変理層夢経 猫未来託宣本 猫ダンジョン荒神』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 「核に似た表現形で世の中の中心にある、汚しがたいものを汚し理不尽をおしつけ、あったことをない事にする、それなら多分、言語の中から見つける事が出来る。それが言語における、それが核なんだ」(Kindle版No.2578)

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第67回。

 『増殖商店街』に続いて、笙野頼子さんの最新単行本が早くも電子書籍化されたので、Kindle Paperwhiteという電子書籍リーダーで読んでみました。単行本(講談社)出版は2012年09月、電子書籍版の出版は2012年11月です。 

 あとがき小説が追加されていた『増殖商店街』と違って、特に電子書籍版でのボーナスはありません。なお、書き下ろしのあとがき小説『言語にとって核とは何か  ----ずーっと嘘ばっか言われてきた、と判ってから。』は、単行本にも収録されています。

 『増殖商店街』収録作で出会った伴侶猫ドーラも今や年老いて、作家は老猫介護の日々を送っています。その艱難、そして一瞬にして永遠の幸福。詳しい内容については、2012年10月01日の日記を参照して下さい。

 ここでは、あとがき小説について簡単にご紹介します。

 さて、あとがき小説『言語にとって核とは何か』ですが、ドーラとの死別から二年近く経った「現在」を書いた作品です。作家が「猫をかぶって」外出する話ですが、実態としては金毘羅と荒神の対話が中心となります。

 「世の中は変わってない、だって変わらなかった結果あの事故があったのだ。機会主義者はその原因に手を付けないでただ取りたい税を取り内面のある個人に番号を振って動員したがるだけ」(Kindle版No.2560)

 「「変わろう」、「変わろう」、という人々は何かを我慢させて自分達の収益をあげようとしているだけ。これを機会に切り捨てたかったものや、邪魔だったものを消したいだけ」(Kindle版No.2618)

 「権力は「侵す必要がないはず」のものをすみずみまで侵したい汚染したいと思う。そのあり様なら個人的体験からでも書くことが出来る」(Kindle版No.2650)

 東日本大震災と原発事故によりあらわになった、都合の悪いことも個人の内面も何もかもなかったことにしてしまうこの国のあり方を凝視し、その背後にあるものを言語のなかに見つけてゆこうとするのです。

 2012年に出された二冊の電子書籍を比べてみると、『増殖商店街(電子書籍版)』にある「さて、言語にとって「核」とは何か・・・・・・。考え中の、笙野頼子 ですだ」という手書きのまえがきは、本書『猫ダンジョン荒神(電子書籍版)』収録の『言語にとって核とは何か』を差していることが分かります。

 また、落書きのように書かれている、原発の“原”の字に目が重ねられた字、そして「うわーっ」という吹き出しは、代表作の一つ『水晶内制度』にむすびついています。原発、権力あるいは「反権力」、言語にとっての核。と、そのあたりにひょうすべさんの姿もちらほらと。

 こうして笙野頼子さんの作品はどんどんつながってあるいは習合して増殖してゆきます。その様子を実感するためにも、既に単行本をお持ちの方も、改めて電子書籍版も購入することをお勧めしたいと思うのです。


タグ:笙野頼子
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