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『人生相談  比呂美の万事OK』(伊藤比呂美) [読書(随筆)]

 「不倫に、離婚に、セックスレスに/いじめ、しゅうとめ、借金苦/最後は、介護で、苦労のしどおし」(テーマソング『万事OK節』冒頭部)。世の女性たちの悩みに寄り添い、進むべき道を指し示す。西日本新聞の人生相談コーナーから抜粋した相談事と回答をまとめた一冊。単行本(西日本新聞社)出版は、2012年05月です。

 伊藤比呂美さんの『たどたどしく声に出して読む歎異抄』のなかに、こんなエピソードが出てきます。伊藤さんが空港で出国審査を受けていたとき、パスポートをチェックした審査官から「いつも楽しく読んでいます」と言われたというのです。

 伊藤比呂美さんといえば日本を代表する現代詩人の一人ですが、彼女の詩集を「いつも」「楽しく」読んでいるというのはどういうことでしょうか。

 一瞬だけ困惑しましたが、すぐに察しがつきました。どうやら西日本では伊藤比呂美さんといえば「新聞の人生相談コーナー担当のおばちゃん」であるらしい。つまりいつも楽しく読んでいるというのは、その人生相談コーナー『万事OK』のことなんだろうと。

 というわけで、いつも楽しく読まれている人生相談コーナー担当のおばちゃん、伊藤比呂美さんが女の悩みに答えまくった一冊が本書です。寄せられた相談事は、夫の浮気、借金、暴力。そして離婚。失恋、不倫、依存症、姑、育児、介護、家族との不和、セクハラ、孤独、自己嫌悪、厭世感。うわっ。

 何と女の人生は苦に満ちた凄絶なものであることか。慄然としつつ、いやまあ悪いけど男に生まれて良かったよ自分、などと素早く逃げたり。

 でも伊藤比呂美さんは逃げず、相談者に寄り添います。ときに辛辣な指摘をしても、決してその悩みを軽んじません。叱咤することがあっても、相談者への敬意を忘れません。そして相談者が最も切実に求めているもの、すなわち共感を最大限に与えてくれるのです。

 「うう、あたしはあなたの手をとって、いっしょに泣きたいくらい。これまでほんとによくがんばってきました」(単行本p.51)

 「がんばれがんばれがんばれがんばれと、あなたに、100回言ってあげたい。大丈夫だよ大丈夫だよ大丈夫だよと、がんばれを上回る110回言ってあげたい」(単行本p.194-195)

 「あたしがあなたのそばにいて面と向かってしゃべることができたら、あたしはまずあなたの話をひたすら聞き、心ゆくまで、お母さんや前夫や職場の悪口をいっしょに言いたいと思いました。これまで、よくがんばってきたあなたです」(単行本p.197)

 ま、ときには

 「あなたがたはたぶんセックスの量が足りません」(単行本p.33)

などとあけすけな言い方もして、個人的にはそこが気に入ってますけど。

 いかにも「女の人生、苦労して、辛酸なめて、艱難辛苦を乗り越えて、ようやく吹っ切れたおばちゃん」を思わせる著者の顔イラスト(描いたのはペコロス岡野さん)も、いい味出してます。

 いかにも新聞社の出版物らしく、途中で「男女共同参画センター」、「ギャンブル依存症自助グループ」、「弁護士」などの相談窓口の紹介と連絡先が掲載されていますので、新聞に投書している場合じゃないほど切羽詰まっている方はご活用ください。まだ余裕がある方で、西日本新聞を講読してらっしゃる方のために、巻末(単行本p.206)に万事OKの相談連絡先が載っています。


タグ:伊藤比呂美
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