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『SFマガジン2011年4月号 ベストSF2010上位作家競作』 [読書(SF)]

 SFマガジンの2011年4月号は「ベストSF2010上位作家競作」ということで、『SFが読みたい!2011年版』において、ベストSF2010国内篇および海外篇で上位に選ばれた作家の短篇作品を掲載してくれました。

 まずはベストSF2010国内篇第一位『華竜の宮』の作者による『リリエンタールの末裔』(上田早夕里)。『華竜の宮』と同じ背景世界を舞台とした短篇です。

 とある寒村に生まれた主人公は、大空にあこがれ、いつか自由に空を飛ぶという夢を実現するために、海辺の都市に出て働き始める。厳しい労働、そして根強い差別。しかし少年は決して夢を捨てなかった。あるとき変わり者の航空技術者と知り合った少年は、自分のためにグライダーを設計してほしいと頼むのだが。

 思わずたじろぐほどストレートで素直な作品です。背景世界こそ共通していますが、『華竜の宮』との関連はほとんどありません。『華竜の宮』が海の物語だったので、今度は空の物語というわけでしょうか。最後の最後、不意打ちのように『華竜の宮』のラストへとつながるところが巧い。

 次は、ベストSF2010海外篇第一位『異星人の郷』の作者による『神が手を叩くとき』(マイクル・F・フリン)。『異星人の郷』では、科学技術が進んだ異星人と中世の地球人とのファーストコンタクトが描かれますが、今度はその逆。未来の地球人と、19世紀中頃に相当するテックレベルの異星文明とのファーストコンタクトが行われます。

 山中にキャンプを設営し、遠隔地から気付かれないように現地の異星人の生活を観察する地球人たち。色々なことが分かってくるにつれて、彼らに対して好意を持つようになってゆく。ところがあるとき、別の惑星から侵略者が襲ってきて、激しい戦いが巻き起こる。

 すでに思い入れのある異星人を助けるか、不介入を貫くか、それとも撤退するべきか。地球人側が迷っているうちに事態は急変。ついにファーストコンタクトが行われるのだが、それは予想外の結果を引き起こすことになるのだった。

 地球人側の登場人物の多くがイスラム教徒であるのを見て何となく予想される通り、異文化理解の困難さがテーマとなります。じっくりと書かれた好篇で、苦い結末も印象的です。

 ベストSF2010国内篇第二位『どろんころんど』の作者は、『カメリ、メトロで迷う』(北野勇作)を書いてくれました。『どろんころんど』とよく似た背景世界を舞台とした短篇で、というかSFマガジン2010年7月掲載の『カメリ、掘り出し物を探す』(2010年05月28日の日記参照)に続くシリーズ最新作です。

 前作でカヌレの金型を手に入れたカメリ(赤いリボンをつけたレプリカメ)は、今度はカヌレの材料を探す冒険の旅へ。ただし翌日の出勤に間に合うように帰ってこなければなりません。

 今回の舞台は地下のメトロです。たくさんの足で走り回る「地下鉄」に飛び乗ったカメリは、迷宮のようになったトンネルのなかで道に迷ってしまうのでした。個人的には、『どろんころんど』のアリスよりも、本シリーズのカメリの方が好きです。

 そして、ベストSF2010海外篇第三位『時の地図』の作者による『セバスティアン・ミンゴランセの七つの人生(のようなもの)』(フェリクス・J・パルマ)。

 家を出て右の店にゆくか左の店にゆくか。途中でみかけた美女に声をかけるか、かけないか。昼食は自宅で食べるか、近所の中華料理店に行くか。ささいな選択により分岐してゆく主人公の可能性。分岐を重ねて増えてゆく多世界が「重ね合わせ」の状態になった奇怪な情景を、ユーモラスに描いた作品です。

 細かいユーモアで笑わせてくれる筆力は素晴らしいのですが、量子論的な「説明」が出てくるのは勘弁してほしいところ。しかもそれ説明になってないし。シュレなんやらの猫、の話も今さらという感じです。

 意外だったのは、一日の終わりに、それまでに分岐発散した多くの可能性が一つまた一つと合流して収束してゆくシーン。あっと驚かせておいて、さっとイイ話風のオチに持ってゆく手際は心憎いほどスマートです。

 最後に、前号に「前篇」が掲載された『ヒロシマをめざしてのそのそと』(ジェイムズ・モロウ)の続きですが、何と後篇ではなく、中篇が掲載されています。

 第二次大戦末期の米国。「火を吐く二足歩行の巨大爬虫類怪獣を本土に上陸させてトーキョーを壊滅させるぞ」という脅しをかけて日本を無条件降伏に追い込むという極秘作戦が進行していた。ハリウッドの有名モンスター俳優である主人公は、民間人の大量虐殺という暴挙を回避させるために、日本の使節団の前でトカゲ怪獣の着ぐるみを装着してのそのそ歩くはめになるのだった。

 という馬鹿馬鹿しい話(詳しくは2011年02月01日の日記参照)ですが、とにかく古き良きユーモアSF(ブラウンとかシェクリィとか)の香りが素晴らしく、先が気になって仕方ありません。

 中篇では、怪獣の着ぐるみ(国家機密)をつけて海辺で恋人といちゃついていた主人公が、近所の人に通報され、タブロイド紙の一面に写真付きで掲載されてしまうというまさかの展開。さらにそのために作戦当日にトラブルに見舞われ、もはや絶体絶命の危機。はたして主人公は、そして大日本帝国の命運やいかに。

 「いつの日か、あの恐竜が、ただの灯台ではなく一族の仲間を見つけると信じています」(p.234)というオールドSFファン感涙の名ゼリフをさりげなく出したりして、どういう読者をターゲットにしているか丸分かり。何にせよ、後篇に期待したいと思います。

[掲載作品]

『リリエンタールの末裔』(上田早夕里)
『神が手を叩くとき』(マイクル・F・フリン)
『カメリ、メトロで迷う』(北野勇作)
『セバスティアン・ミンゴランセの七つの人生(のようなもの)』(フェリクス・J・パルマ)

『ヒロシマをめざしてのそのそと 〈中篇〉』(ジェイムズ・モロウ)


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