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『自然現象はなぜ数式で記述できるのか』(志村史夫) [読書(サイエンス)]

 人間が創り出した「数学」により自然法則が完璧に記述できる、ということの不思議さを扱った本です。新書版(PHP研究所)出版は2010年12月。

「私には、人間にはまったく関係がない純粋な自然現象が、100%人間が創造した数式で完璧に記述される、ということが身体が震えるほど不思議で仕方ないのです」(「まえがき」より)

 なぜ全ての自然法則はシンプルで美しい(と人間に感じられる)数式で表すことが出来るのか。これについては私も昔から疑問に思っていましたし、哲学でも「自然科学はどれほど客観的・中立的なものなのか」という難しいテーマとからんで、しばしば言及される難問です。

 この難問について徹底的に追求して著者なりの解答を示す一冊、だと期待して読み進めるわけですが、結論から申し上げますと、本書はこの疑問に答えてくれません。それどころか、ほとんど真面目に検討しようともしません。その代わり、ひたすら高校レベルの初等物理の説明が続くのです。

 座標系、初等力学、電磁気学、特殊相対論などの基本が数式付きで解説され、そして数ページごとに前掲の疑問が頭痛の脈動のように繰り返される、という次第です。

 そもそも初等物理に興味がない読者なら数式が並ぶ解説など最初から読まないでしょうし、数式を追って理解したいと思う読者に対してはもっとよい解説書や教科書には事欠かないので、いったいどのような読者をターゲットにして書かれた本なのか、いまひとつよく分かりません。

 「あとがき」に至ってようやく著者の考えが示されるのですが、あまりにも素朴に「神」の概念に逃げこむので、正直いってがっかりさせられます。途中でちらりと言及される「人間原理」流の説明にしても、ポストモダニズム思想の立場にしても、ろくに考えもしないであっさり切り捨てるのはさすがに乱暴すぎるでしょう。

 どうせ「神」を持ち出すのなら、「この宇宙は、コンピュータ上で走っているシミュレーションなのだ。森羅万象すべては、数理規則に従った演算プロセスに過ぎないのだ」とか言い出す方がずっとマシだと思えて仕方ありません。

 というわけで、タイトルに惹かれて読んだものの、心底がっかりさせられた一冊。数式を使うことで自然現象が見事に扱えることを発見する驚きと興奮、そして不思議さを味わいたい方は、定評ある初等物理学の教科書を読むことをお勧めします。


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