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『山尾悠子作品集成』(山尾悠子) [読書(小説・詩)]

 山尾悠子さんのデビューから休筆まで約十年間(昭和50年代)に発表された作品を集めた一冊。単行本出版(国書刊行会)は2000年6月。

 収録作品だけで700ページを超える、片手で読むのは困難な、箱入りの豪華本です。もちろんお値段もそれなりの贅沢さ。石堂藍さんによる解説、著作年表、著者による「後記」を収録。さらに別冊付録には、佐藤亜紀さん、野阿梓さん、小谷真理さん、東雅夫さん、という豪華メンバーによる書き下ろしエッセイが掲載され、ボーナスとして著者創作ノートのコピーが付いています。

 本書に収録されている作品は全部で32篇。そのうち11篇は、後に出版された本書の軽量廉価版である『夢の遠近法 山尾悠子初期作品選』にも収められています(2010年11月15日の日記参照)。この11篇は除いて、残り21篇から気に入った作品を紹介すると。

 まず連作シリーズ「破壊王」を構成する『パラス・アテネ』、『火焔圖』、『夜半楽』、
『繭』の4篇が大いに気に入りました。滅びの予感に満ちた頽廃の都を舞台に、謎めいた人物やら妖やらが繰り広げる血なまぐさい絵巻物。お約束のように毎回都が焼け落ちる、その「滅び」への執着も微笑ましい。

 この著者の作品にしては珍しくストーリーがはっきりしており、特に『火焔圖』と『夜半楽』はシンプルで力強いドラマチックな物語を楽しめます。個人的には、『夜半楽』が一番のお気に入り。

 雲海の上にそびえ立つ壁も床も天井も全てが透明な高い塔。そこに閉じ込められた九千九百九十九人の男女。無茶苦茶な設定から始まるファンタジー作品『耶路庭国異聞』も忘れがたい。

 黒硝子に封じ込められた宇宙、その「割れ目」から垣間見える「外」の巨大な人影など、奇妙なイメージが次から次へと繰り出され、説明も展開もなく、どこにも収束しないでひたすら奇想に乗って突っ走ってゆく作品で、何というか、若さ炸裂という感じ。読んでいて気分が高揚します。

 『街の人名簿』は、何やら陰謀を進めているらしい謎めいた会社、夜のビル街を飛び回る発光球体やフライングヒューマノイド(あるいはモスマン)、足音だけの見えない尾行者、ドッペルゲンガーへの招待状など、都会の片隅でしばしば遭遇する不可解なものたちを描いた作品。横溢するオカルト趣味(文学的なそれではなくて、むしろ都市伝説的な)が印象的です。これも好き。

 舞台がほぼ現実に近いという、この著者にしては異色作で、解題では「山尾悠子のうち捨てられた一面」などという言われようですが、個人的にはこちらの方向にも進んで欲しかったかも。

 他に、巨大建造物内部のあり得ない光景やら奇怪な俯瞰視点など魅力的なイメージを詰め込んだ『巨人』、ひたすら緻密な情景描写だけで(しかも順次時間をさかのぼる凝った叙述法で)密室内での惨劇を描いてみせる『黒金』、巨大宝石を狙った怪盗と若い娘の時を超える幻想的な恋物語『スターストーン』などがお気に入りです。

 自分が持っていると自覚したばかりの、異形の世界を構築する(そして破壊する)言葉の力に酔いしれ、若さと情熱に浮かれ、憑かれたように書いたような印象を受ける作品が多く、その若々しい向こう見ずな筆の勢いがまぶしい。

 というわけで、今から山尾悠子の初期作品を読んでみようという方には『夢の遠近法 山尾悠子初期作品選』をお勧めしますが、そちらを読んで気に入ったなら、ぜひ本書にも手を出してほしいと思います。波長が合う読者なら確実にハマるに違いありません。


[収録作](☆は『夢の遠近法 山尾悠子初期作品選』にも収録されている作品)

『夢の棲む街』(☆)
『月蝕』(☆)
『ムーンゲイト』(☆)
『堕天使』
『遠近法』(☆)
『シメールの領地』
『ファンタジア領』
『耶路庭国異聞』
『街の人名簿』
『巨人』
『蝕』
『スターストーン』
『黒金』
『童話・支那風小夜曲集』(☆)
『透明族に関するエスキス』(☆)
『私はその男にハンザ街で出会った』(☆)
『遠近法・補遺』
『パラス・アテネ』
『火焔圖』
『夜半楽』
『繭』
『支那の禽』
『秋宵』
『菊』
『眠れる美女』(☆)
『傳説』(☆)
『月齢』(☆)
『蝉丸』
『赤い糸』
『塔』
『天使論』(☆)
『ゴーレム』


タグ:山尾悠子
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