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『地神ちゃんクイズ(文藝2010年冬号掲載)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第54回。

 予定通り、『猫トイレット荒神』の続きが「文藝」冬号に掲載されました。正式タイトルは『小説神変理層夢経・序 便所神受難品その中篇 割り込み託宣小説 地神ちゃんクイズ』です。な、長い。

 ちょっと復習しておきますと、これは『神変理層夢経』という小説のうち、その序章の中間部にあたるもの。序章前篇は「文藝」秋号に掲載されており、おそらく来年発売の春号に序章後篇が掲載されるものと思われます。

 さらに、「すばる」の9月号と10月号に『神変理層夢経』本篇第一部『猫ダンジョン荒神』が前後篇に分けて掲載されています。これに続く第二部のタイトルは『猫ストリート荒神』で来年発表、全体は序章含め六部作になるということが、「群像」10月号に掲載されたエッセイで予告されています。

 ただし、この予告では今回の「文藝」冬号に掲載されるのは序章後篇となっていたのに、実際には(割り込みで)序章中篇が掲載されたことを見ても分かる通り、色々と予定の変更はありそうです。

 あるいは、この「予告」そのものも小説の一部なのかも知れません。何しろ発表形態を含めあちこちに仕掛けがある複雑な作品で、しかもなかなか全体像が見えてこないもので、ついつい些細なことで疑心暗鬼に陥ってしまいます。

 例えば、これまでの作品では「匿名の巨大掲示板」(『絶叫師タコグルメ』)や「2チャンネル」(『片づけない作家と西の天狗』)と表記されていたネット掲示板が、今作に限って「2ちゃんねる」と書かれているのには何か深い意味があるのだろうか、などと疑いはじめたり。

 さて、今回、前篇と後篇のあいだにいきなり割り込んできたのは地神ちゃんです。もれ様です。『だいにっほん三部作』で活躍(?)した御霊によく似てます。とにかく、家とか建てるとき地鎮祭をして祟りをなさないようお願いしないとまずい、あのおかた。もともと原始八幡神の兄弟神でしたが、ヤマトに服従してからは地方公務員として土地管理の仕事をやっている、荒神様とは長い付き合い、だそうで。

 その地神ちゃんが笙野頼子の脳内を乗っ取って、というかヨリマシにして、これからもれ託宣だします、という話です。一人称あたし問題、これまで信じていた家族の歴史が実は嘘でした事件、生まれた直後に死んで肉体を金毘羅にとられてしまった女子霊との口喧嘩、などなど、ちょっと辛辣ながらいっけん親しみやすそうなユーモラスな語り口で、次々と飛び出てくる話題の数々。ちなみに、今回は猫介護の話題はありません。

 何しろ読みやすくて面白い。笑わせるところも多く、ついつい気を許してしまいそうになります。が、そこで油断してはいけません。後半、するするっと『海底八幡宮』につながってゆきます。あらかじめ『海底八幡宮』を読んで備えておくことを強くお勧めします。何だか悪質な訪問販売に対する注意喚起みたいですけど。

 さて、託宣タイトルが「余はいかにしてもれから僕になりしか」であるのを見ても分かる通り、一人称問題は本作の重要テーマの一つであるようです。『猫ダンジョン荒神』でも「私」と「あたし」が分裂しかけていたし(あるいは便所に「私」を落っことして一人称不調になってしまったのでしょうか)、荒神様に至っては自我が三つに分裂するし、自分の裏存在(というかそれを言うならどっちが表ですか)ともいうべき女子は出てくるし。

 もしかしたら「自分を複数視点化して書く」という試みをしているのかな、と思ったりもするのですが、それがどういうことなのか、よく分かりません。ごめんなさい。

 結局、地神ちゃんクイズは不発に終わり、今はただ後篇を待つのみです。六部作が完結して全体を一気読みできる日が早く来ることを祈りつつ。


タグ:笙野頼子
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