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『ゾーイの物語(老人と宇宙4)』(ジョン・スコルジー) [読書(SF)]

 老人たちが宇宙に出てエイリアン種族とドンパチやるという痛快スペースオペラシリーズ最新作。というより番外篇です。文庫版(早川書房)の出版は2010年9月。

 このシリーズは三部作でめでたく完結したのですが、第三作に対して読者から寄せられた不満の声に対する回答として、同じストーリーを登場人物を変えて書くという、例えばオースン・スコット・カードが『エンダーのゲーム』と対になる『エンダーズ・シャドウ』を書いたような、そういう手法で姉妹篇を執筆したのだそうです。それがこの第四作、『ゾーイの物語』です。

 第三作『最後の星戦』のストーリーを、主人公の娘であるゾーイの観点から語り直す。そのついでに、「コロニーを襲撃してきた原住民(いわゆる “狼男”たち)との決着はどうなったのか」とか、「後半どこかに行っていたゾーイが、コロニーがエイリアン種族の襲撃を受ける直前になって、コロニー防衛に必要な「超兵器」を持って突然戻ってくる、というのはあまりにもご都合主義に過ぎるのではないか」といった声に応え、そのときゾーイはどこで何をしていたのかを説明して読者をなだめよう、というわけです。

 確かに、第三部クライマックスの展開はあんまりなので、私も「本シリーズの基準で見てもご都合主義すぎるだろう」とか、「美少女が頑張っちゃえば宇宙は何でも意のままになるんかい」とか、色々とツッコミを入れてしまいました。(2009年06月29日の日記参照)

 さて、そこで本書です。14歳の少女の成長物語ですが、正直に言うとヒロインであるゾーイの人物造形にいまひとつ深みや説得力が欠けており、感情移入も難しいので、彼女の友情だの恋愛だの悩みだのといったストーリー展開にさほど興味が持てず、第一部と第二部はちょっと退屈しました。原住民との交渉シーンは楽しめましたけど。

 第三部に入って、それもラスト100ページを切ったあたりから、本当に面白くなってきます。第三作『最後の星戦』ではほとんど書かれなかった部分、すなわちゾーイがたった一人でエイリアン宇宙船に乗り込んで旅立ち、数百もの知的種族を束ねる銀河最大の組織の崩壊を防ぎ、あるエイリアン種族の長年の宿願を果たしてやり、神に近いほど進歩したエイリアン種族から与えられた試練を乗り越え、家族と友人たちと、ついでに人類文明全体を救った顛末が語られます。

 苦し紛れのささやかなご都合主義は読者からの激しい非難にさらされますが、大風呂敷を広げて堂々と胸を張ってやりすぎたご都合主義は読者から拍手喝采で迎えられる。覚えておくべき教訓です。あと、美少女が頑張っちゃえば宇宙は何でも意のままになります。

 というわけで、確かに独立した小説として読めないことはないのですが、何しろ背景となる第三作のストーリーはところどころで「あらすじ」のごとく駆け足で説明されるだけなので、やはり先に第三作を読んで、それから本書にとりかかることを強くお勧めします。第三作『最後の星戦』が気に入らなかった読者は、おそらく本書を読む必要はないでしょう。


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