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『SFマガジン2010年9月号 特集:東京SF化計画』 [読書(SF)]

 2010年9月号の特集は「東京SF化計画」ということで、何が何やらよく分かりませんが、要は東京を舞台とした、東京(日本)とは何かというテーマを追求した、そういうSFの特集だと思ってよいようです。短篇三篇が掲載されています。

 まずは、昨年『ひな菊』で注目された高野史緒さんの新作『アントンと清姫』。ラトビア共和国から来日した青年が見た東京の姿を描いた作品です。ラトビア人である主人公にとってはロシアも日本も「異国」であり、両者をめぐる物語をそれなりに冷静に客観的に眺める視点という役割を果たします。

 クレムリン宮殿にあるツァーリ・コロコル(鐘の皇帝)が1737年に焼けて欠損したのは(ここまでは史実)、ソ連のスパイとも言われる科学者アントンが清姫を裏切って故国に逃げ帰った際、怒り狂った清姫が大蛇に変化してモスクワまで彼を追ってゆき、ツァーリ・コロコルに逃げ込んだアントンを焼き殺してしまったという故事による。これは「アントン・清姫伝説」としてロシアではよく知られている。などと最初から大嘘。

 いわゆる歴史改変SFなんですが、こうなると改変というか何というか。奔放な想像力が、モスクワと東京を巻き込んで異界化してゆき、延々と迫力ある東京幻想シーンが続いた挙げ句、東京の地霊が大蛇と化して燃え上がりながらロシアへ飛ぶという一大クライマックスへ。

 高野史緒さんは要注目だと思います。

 次はクリストファー・バルザック『きみよりもリアルに』で、これは父親の仕事の関係で東京の郊外住宅地に引っ越してきた英国人の少年が主人公となるボーイ・ミーツ・ガールもの。

 家の近くで見つけた小さな祠でキツネに出会った少年は、あるとき一人で電車に乗って東京まで出て、迷子になってしまいます。そこで彼が出会ったのが、キツネの着ぐるみを着た不思議な少女。直観的に、あのときのキツネが化けたものに違いないと思う少年ですが、はたして少女の正体は。

 少年の目を通して「得体の知れない異質なもの」として描かれる東京郊外や都心部の様子はなかなかに面白いのですが、話そのものはいまひとつ。

 最後はジェニファー・レネアの『トウキョウ = マガイ』。「転送」と呼ばれる次元跳躍で憧れのトーキョーへ週末旅行に出かけた米国人の青年と、何やらうさん臭いガイドの東京珍道中。かと思ったらいきなり迷子になり、気がつくとあたりは魑魅魍魎、妖怪変化だらけの魔界トーキョー。

 何が何やら分からないまま必死でサバイバルする主人公。ついに最強アイテム「キツネのおめん」を手に入れて、これさえ着ければもう日本人、なのか。何が何やら分からないままトーキョーを徘徊するうちにやがて・・・。

 原題を直訳すると「偽東京」という意味ですが、最初から最後まで魔界感あふれる偽東京の描写が楽しい作品。特に銭湯の描写とか。

 というわけで、今回の作品で分かったこと。欧米人は東京に来ると必ず迷子になる。少なくとも迷子感をひしひしと感じる。そして、欧米人は、東京で起こる出来事は全てキツネの仕業だと信じている。もしかしたらガイドブックにそう書いてあるのかも知れません。

 特集としては、他に東京を論じた評論、チャールズ・ストロスの東京滞在記(秋葉原で途方に暮れる様子が可笑しい)。そして労作「東京SF大全」。古今東西の「東京SF」のリストで、東京はこんなに多くのSFの題材にされていたのかと驚かされます。というか、いまさら「SF化」を計画する必要ないじゃん。

 特集以外では、北野勇作さんの『南の島のハッピーエンド』が、傷心女性の妄執が現実改変を引き起こすという、よくある話ながら、いきなり「クラゲ怪獣クゲラー登場」とか、北野さんらしいヘンな感覚で楽しめました。

[収録作]

『アントンと清姫』(高野史緒)
『きみよりもリアルに』(クリストファー・バルザック)
『トウキョウ = マガイ』(ジェニファー・レネア)


タグ:SFマガジン
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