SSブログ

『ミツバチの不足と日本農業のこれから』(吉田忠晴) [読書(教養)]

 ここ数年、ミツバチ不足のニュースをよく耳にするのですが、ミツバチ不足というのはどういうことなのか、具体的に何が問題になっているのか、これからどうすればいいのか、何だかいま一つよく分かりません。というわけで、ミツバチ研究と養蜂の専門家が一般向けに分かりやすく解説してくれた本書を読んでみました。出版は2009年12月です。

 ミツバチ不足というとすぐに脳裏に浮かぶのは、2007年から2008年にかけて米国で大問題となった蜂の集団失踪(蜂群崩壊症候群、CCD)です。米国で飼育されていたミツバチの実に36パーセントが死骸も残さずに“消えた”というから衝撃的。

 このミステリーじみた怪事件は私たちの想像力をかきたて、原因は何か、もしや他の種にも飛び火するのか、いよいよ次の大量絶滅期が始まったのか、などと大いに話題になったものです。

 もちろんCCDの謎解きを試みる本も出版されてベストセラーとなり、M・ナイト・シャマラン監督は、おそらくこの件にヒントを得て、映画『ハプニング』を撮りました。オープニングで蜂の大量死の話題が出てきて、それが人間の大量死につながってゆくという話です。

 しかし、少なくとも日本におけるミツバチ不足はCCDとは別件。本書を読むまで、実はそのレベルで混同していました。お恥ずかしい限りです。

 本書は日本におけるミツバチ不足問題について順番に解説してゆきます。まず「1. ミツバチが減ると何が問題か」では、ハウス栽培や露地栽培の野菜や果物(イチゴ、メロン、スイカ、カボチャ、キュウリ、ナス、タマネギ、トマトなどなど)の受粉はミツバチに頼っていること、それらの作物の総生産高は3452億円にも達すること、そして受粉用ミツバチの総数が2008年には前年比で58パーセント減となったこと。58パーセント減!

 このためミツバチの価格は四割から五割も高騰し、何と十六都道府県で農作物の生産コストが5倍に跳ね上がったこと。5倍!

 著者は淡々と書いていますが、読んでびっくりしました。危機的状況じゃん。

 「2. なぜ日本でミツバチが減っているのか」では、日本の養蜂では女王蜂は全て輸入に頼っていること、その量は年間一万匹以上になること、2007年にはその九割がオーストラリアから輸入されていたこと、そしてそのオーストラリアで蜂の伝染病が発生したため輸入が禁止されたこと、しかも何らかの理由(おそらく農薬、ダニ、気候不順など)で日本国内でも働き蜂がどんどん死んでいること、などが解説されます。そりゃミツバチ不足になるはずです。

 「3. 世界中でミツバチが減っている理由」では各国の状況が、「4. ミツバチでないとダメな理由」ではミツバチの代わりに他の昆虫を使うことが出来ない理由が説明されます。「6. なぜ女王蜂の新たな輸入は危険なのか」では、これまで地元の生態系に組み込まれていなかった蜂を導入したせいで、バイオハザードを引き起こしてしまったブラジルの恐ろしい事例が紹介されます。

 「5. ミツバチ減少防止の対策」では、農水省がどんな手を打っているかを教えてくれます。「各都道府県に2000万円の補助金」を出しているそうです。

 著者は、日本はミツバチの人工授精の研究が遅れていることを指摘し、その研究と普及を推進すべきだと書いています。その上で、「買い蜂」の使い捨て、を見直す時期だと主張するのです。

 実は日本では、交配時期を終えたミツバチは病気の発生を防ぐために蜂群ごと焼却処分している(そして毎年、新たな女王蜂を輸入してコロニーを作らせる)のだそうです。それをリユースすることを検討すべきだというのです。説得力があります。

 こんな具合に、全体に渡って知らなかったことばかりで、とても勉強になりました。

「植物が育ち、花が咲き、実が実ります。これらのすべてに、ミツバチが貢献しているのです。ぜひこの秋、ミツバチの動向は自分の生活に密接にかかわるものだという意識を持って、ミツバチ関連のニュースに注目してください」(p.70)

 というわけで、これからミツバチの話題には気をつけようと思います。読後、これまで使い捨てマシンのように扱ってきたミツバチを、生態系に組み込まれた生物種として見直し、持続可能性を維持しつつ、うまく活用してゆく知恵が求められているのだなあと、そのように感じました。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0