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『洋梨形の男』(ジョージ・R・R・マーティン) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 『SFが読みたい!2010年版』において、ベストSF2009海外篇第三位に選ばれたジョージ・R・R・マーティンの短篇集。単行本出版は 2009年9月です。

 日本独自に編纂されたホラー短篇集で、わずかながらもSF的要素が含まれているのは『成立しないヴァリエーション』くらい。他は純然たるホラー作品で、いやSFじゃないから投票しちゃイカンとか偏狭なことは言いませんが、でもこれがベストSF第三位というのはどんなものかなあ、という気もします。

 さて、個々の作品については、さすがにマーティンだけあって隙のない完成度です。何のためらいもなく定番的な設定やプロットを採用するのも、自信の表れでしょう。

 例えば、『思い出のメロディー』や『洋梨形の男』は、粘着気質のストーカーにつきまとわれた主人公が、周囲の人々に被害を訴えても信じてもらえず、むしろ頭がおかしくなったのかと疑われ、孤立したままどんどん追い詰められてゆくという話。

 『モンキー療法』は、太り過ぎの男が怪しげなダイエット法に手を出したためにある種の「呪い」をかけられ、食事が取れなくなってみるみる痩せて衰弱してゆき、ついには、という話。

 『子供たちの肖像』は、執筆に没頭するあまり家族を省みないために孤立した作家のもとに、自分の作品の登場人物たちが次々と現れて、その罪を糾弾するという話。

 『成立しないヴァリエーション』は、若いころにいじめられた青年が、自分をいじめた相手たちを長年に渡って少しずつ少しずつ破滅に追い込んでゆく陰湿な復讐譚。

 という具合に、どこかで読んだことがあるような話ばかりです。しかしそこがマーティンの名人芸というか、きっちり読者を引き込んで最後まで読ませてしまうところがお見事です。陰々滅々で生理的に嫌な話も多いので、そういうのが苦手な人は要注意。

 個人的には『成立しないヴァリエーション』が最も気に入りました。イジメられっ子の復讐、チェス、タイムトラベルという三題噺です。チェスの試合を人生になぞらえるのは定番ですが、最後の鮮やかな局面逆転(チェスではなく人生の)が見事。陰湿なストーリーにも関わらず、爽やかな読後感が味わえました。

 『子供たちの肖像』は、最後の最後、ラストパラグラフで全体をひっくり返してみせる荒技が恐ろしく効果的で、真相を知ってから再読すると、最初に読んだときとは印象ががらりと変わります。マーティンの技が冴える一篇。

 というわけで、よく書けた定番的なホラー短篇を求めている方は要チェックでしょう。個人的にはもっと変な話を読みたいと思うのですが、それをマーティンに期待してどうするというか、良くも悪くもマーティンらしい手堅い作品集です。

[収録作]

『モンキー療法』
『思い出のメロディー』
『子供たちの肖像』
『終業時間』
『洋梨形の男』
『成立しないヴァリエーション』


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