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『オープン・セサミ』(久保寺健彦) [読書(小説・詩)]

 『中学んとき』に続く久保寺健彦さんの連作短篇集です。単行本出版は2010年4月。

 様々な年代の男女が、「人生はじめての体験」を通じて新たな生活に踏み出す(タイトルはおそらくここから)というシバリで別冊文藝春秋に連載され、それぞれ20代、30代、40代、50代、60代、70代が主人公となる、六つの短篇が含まれています。

 学級崩壊の危機に直面した空回り気味20代熱血教師が、粉骨砕身で踏ん張る『先生一年生』。幼い娘のことが心配で心配で、思わずストーカー行為に走ってしまう30代父親の涙ぐましい奮闘記『はじめてのおでかけ』。

 怪我をした息子の代わりに学校の体育祭でリレー競走に参加するはめになった40代母親、なりゆき熱血スポ根『ラストラ40』。部下との関係が次第に変な方向にずれてゆくお年頃50代課長の定年間近BL『彼氏彼氏の事情』。

 気軽に参加した登山サークルで遭難しかけた60代専業主婦、その捨て身の活躍を描く『ある日、森の中』。親戚の子どもに博打を教え、しかもサマでお小遣いを巻き上げちゃうような70代不良老人との一夏の出会いを描く『さよならは一度だけ』。

 どの話も、非常に読みやすく、最初の数ページでぐぐっと感情移入させて、ぱっとストレス発散させて、気持ちよく終わる。良い意味で漫画的な作品ばかりです。深みはありませんが、とにかく読んでいて楽しい。

 個人的に好きなのは、まずは老人たちが山中で遭難して危機的な状況に陥る『ある日、森の中』です。次第に追い詰められてゆく状況でキャラクターが立ちまくり、クライマックスでは血がたぎるような爽快感。負けるな老人、枯れるな老人、若者に迷惑かけない範囲で頑張れ。

 もう一つ『ラストラ40』も好み。小学校のリレー競争に参加するはめになった母親の話なんですが、最初は仕方なく、だんだん本気になってゆき、最後はこれまでの人生を賭けて走る、みたいな熱血展開になってゆくところが素晴らしい。

 私が初めて読んだ久保寺健彦さんの小説は、落ち目のアイドルがテレビ中継画面を独占して売り込みをかけるためだけにマラソンでトップを走り続けることに挑戦するという、客観的に見ると何とも馬鹿馬鹿しい設定だけど、読み進めるにつれて体温が上がってしまうという、そんな奇妙なスポ根でした。

 久保寺健彦さんがこういう話を書くと、ものすごく真面目に盛り上がってしまうのは私だけなんでしょうか。

 他に、『すべての若き野郎ども』の後日譚と言われたら信じてしまいそうな、不良老人のキャラクターが魅力的な『さよならは一度だけ』も悪くない。とか言い出すと他の作品も悪くない出来なので困ってしまう。

 ともあれ、軽めの熱血小説が好きな方は、ぴたりはまる作家だと思います。気楽に読める娯楽小説をお探しの(でもライトノベルの独特なノリについてゆけない)方などにお勧めします。面白いですよ。


タグ:久保寺健彦
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