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『氷上都市の秘宝』(フィリップ・リーヴ) [読書(SF)]

 蒸気エンジン駆動キャタピラで絶え間なく移動を続ける都市群。強い都市が弱い都市を喰って生き延びる“都市淘汰主義”が支配する最終戦争後の世界。飛行船により都市間の交易を担う商人たち。戦争前のハイテク遺品を発掘して持ち込んでくるスカベンジャー。戦争前の技術で作られたターミネーターみたいな戦闘機械兵。

 読者を魅了する設定。かつての宮崎アニメを思わせる生き生きとしたキャラクター。スターウォーズ(エピソード4、5)を思い出させてくれるハラハラドキドキの冒険SF、『移動都市』の第三作です。第二作『略奪都市の黄金』から16年、それまでの主人公コンビであるトムとヘスターの間に生まれた娘、レンが新たなヒロインとなります。文庫版の出版は2010年3月。

 冒険譚の続編で主人公の娘が活躍するというのは定番だし、大抵は二番煎じになって面白さが半減してしまうしなあ、などと思いつつ読んでみましたが、こ、これは凄い。第一作や第二作を軽く超える傑作ですよ。ですよ。

 第二作の舞台となった都市からレンがこっそり持ち出した一冊の本が、まあ「マルタの鷹」というか、恐るべき秘密が書かれている(これが秘宝)ということで、様々な勢力が争奪戦を繰り広げることになります。基本ですね。

 設定も展開も古典的な冒険物語そのもの。秘宝を持ったまま誘拐されたレン、彼女を追う両親、秘宝を手に入れその力で世界を滅ぼさんとする戦闘機械兵軍団、この三つのストーリーが並行して語られ、最後に合流してクライマックスという、これまた手堅い構成。

 第一作、第二作に登場した印象的なキャラクターも勢ぞろい。死んだり行方不明になったりしたはずの人物もどんどん出てきます。最初の方はゆっくりした展開ですが、後半(第二部)に入ってからは、もう怒濤の展開が待っています。

 特にラスト100ページは息をもつかせぬアクションとスペクタクルの連打で、これが最後のクライマックスかと思うとまた次が、まだ次が、さらに次が。意表をつくどんでん返しも二重三重に仕掛けられており、とにかく予想を超える圧倒的な面白さ。夢中で読みふけってしまいました。

 個人的には、何といってもヘスターが好きですね。あれから16年も経過して娘も産んだのに、少しも丸くなってないというか、冷酷無慈悲にばんばん殺すし、子どもたちは平気で見捨てるし、娘に対しても夫に対しても身を引き裂かれるような葛藤を持っているし、なにかと素敵です。

 あまりに不幸な人生を送ってきたために、ちょっとでも幸福が手に入ると怖くなって自分でそれを破壊してしまう、ついでに衝動的に周囲の人にも悲劇をまき散らして、自己嫌悪と共に不幸まっしぐらに走ってゆく。現実にはよくいるタイプですが、冒険物語のヒロインでこの性格のままというのはちょっと珍しいかも。

 最後に待っている修羅場は、もうヘスターの独壇場というか、前作『略奪都市の黄金』でくすぶっていた地雷がようやく起爆したというか、本当に先が楽しみです。というか、ここで終わってしまうのはあまりにむごい。続く第四作、シリーズ完結編を早く訳して下さい。というか早く訳して下さい。


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