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『数学10大論争』(ハル・ヘルマン) [読書(サイエンス)]

 著名な論争、対立、紛争に焦点を当てることで数学史を俯瞰してみようという本。単行本出版は2009年12月です。

「ここに数学の大論争についての本を著すことになった。このなかで、数学は長らく考えられていたような客観的で確実なものではないこと、そして数学者たちは、私たちと同様に、欲求不満に陥ったり、ちっぽけな感情に囚われてしまったりすることをお見せする」(「はじめに」より)

 というわけで、数学史上名高い10個の論争が、年代順に解説されてゆきます。まず最初の4つの論争は、「どちらが先に発見したか」、「どちらの方が優秀か」という激しくも見苦しい争い。

 三次方程式の解法をめぐって「タルターリアvsカルダーノ」が、解析幾何学をめぐって「デカルトvsフェルマー」が、微積分をめぐって「ニュートンvsライプニッツ」が、そして兄弟間の確執で「ベルヌーイ兄弟」が、恥も外聞もかなぐり捨てて泥仕合を繰り広げた、その様子を紹介してくれます。

 ここまではゴシップの類ですが、ここから先は、数学はどうあるべきか、そもそも数学とは何か、という深遠なテーマをめぐっての対立になります。

 まず数学と科学の関係をめぐって「シルヴェスターvsハクスリー」が、「無限」の取り扱いをめぐって「クロネッカーvsカントール」が、そして集合論の取り扱いをめぐって「ボレルvsツェルメロ」が対立します。

 数学が手を広げすぎて収拾がつかなくなった、という危機感から、数学がよって立つ基盤をきっちり確立させようという動きが出てくるわけですが、その基盤をめぐって「ポアンカレvsラッセル」の論争が起き、数学の展開をめぐって「ヒルベルトvsブラウェル」が対立。

 そうこうしているうちに集合論にはパラドックスが見つかり、真偽決定不能命題が見つかり、数学体系が完全になることはあり得ないことが証明され、何だかもうぐずぐずになってきたところで、そもそも数学って何だっけ、というレベルで「絶対主義者/プラトン主義者vs可謬主義者/構成主義者」に分かれた大論争が勃発。

 というのが全体の流れです。読めば数学という学問に対するイメージが変わる(たぶん悪化する)本ですが、逆に数学者に対する親近感がわくかも知れません。

 個人的には、20世紀における数学基礎論に関する果てしない混乱ぶりが、関係者の見苦しい争いやいさかいを通じて生々しく伝わってくるところが興味深かったです。


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