SSブログ

『テメレア戦記III 黒雲の彼方へ』(ナオミ・ノヴィク) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 19世紀初頭、ナポレオン戦争当時の欧州を舞台に、テメレアと名付けられた漆黒のドラゴンとその乗り手であるローレンスが活躍する人気シリーズ、『テメレア戦記』の第三弾です。

 手堅い歴史小説に「人類は何千年にも渡ってドラゴンを飼い馴らし空軍戦力として活用している」という設定を持ち込んだ上で、もしも19世紀はじめに空軍が存在したとしたら、どのような戦術が編み出され、ナポレオン戦争はどのように推移しただろうか、という点についてきちんと考察した知的なシミュレーション小説としても興味深く読めます。

 「歴史小説+仮想戦記+ドラゴンファンタジー」という離れ業を軽々とやってのけた上に、単純に「テメレア可愛い!」とキャラ小説として読んでも充分に楽しめるという、お勧めのシリーズです。

 さて本書では、テメレア一行が中国を出発して陸路をたどって英国に帰還するまでの冒険が描かれます。

 全体は三つのパートに分かれています。最初のパートは、西へ西へと砂漠を越えヒマラヤ山脈を越える苦難の旅。雇ったガイドはどうもうさん臭い人物だし、砂嵐は襲ってくるし、野生ドラゴンの群れは襲ってくるし、雪崩は襲ってくるし、ひたすら大自然の猛威を耐え忍ぶことになります。

 次のパートでは、ようやくイスタンブールにたどり着いた一行が、オスマン帝国と英国との間で起きた政治的トラブルに巻き込まれて足止めをくらうことに。

 そして最終パート。一行はプロイセン軍に加わってナポレオン率いるフランス軍と戦うはめになります。これまで、自然現象や政治状況といった試練ばかりで活躍の機会が少なかったのを埋め合わせるかのようにテメレアが大活躍、するかと思えば、かなり微妙なことに。

 何しろテメレアたちが参加したのは「イエナ・アウエルシュタットの戦い」というナポレオン戦争でも有名どころの戦争です。もちろん周知の史実通りプロイセン軍は壊滅。一行は悲惨な潰走を続けるはめに。

 英国海軍の砲撃範囲まであと数マイルというところまで逃げたものの、無敵のフランス軍に囲まれ進退窮まった一行。そこに、テメレアへの復讐に燃える宿敵、リエンが大空から舞い降りる!

 というわけで、こうこなくっちゃ、という素敵な展開。漆黒のテメレアvs純白のリエンという対決構図も鮮やかで、その純白のリエンにさっそうとまたがり天翔るナポレオンの雄姿たるや、有名な肖像画のイメージをパワーアップしたようで無茶カッコいい。

 ナポレオンの軍略に、リエンが持ち込んだ中国の兵法が加わって、今やフランス軍の戦略は極めて洗練されたものになっています。大量輸送による補給線確保、高地への強襲降下、騎兵隊とドラゴン部隊の連携作戦、敵ドラゴン空軍部隊の攪乱戦法など、ナポレオンは「空軍」の潜在力を存分に活用して、数で勝る敵を次々と撃破してゆきます。

 テメレアとローレンスにしてみれば負け戦なのですが、敗戦を描いてこれだけわくわく胸踊る物語にしてしまう作者の手腕は見事なものです。

 もしもナポレオンに「空軍」を与えたら、どんな素晴らしい戦略、戦術を見せてくれただろうか。大胆な空想と緻密な考察によって、まるで史実を読んでいるかのようなリアリティと説得力のある戦いが描かれます。歴史的な戦いへの主役たちの絡ませ方もうまく、感心させられます。

 新登場するキャラクターたちも印象的で、謎めいた「案内人」、孤独で気高く恐ろしく強い「宿敵」、足手まといながら愛嬌がありいざというとき活躍する「助手」など、この手の冒険活劇には欠かせないバイプレーヤーの配置も抜かりなく。特に火吹きドラゴンの小娘は忘れがたい印象を残します。これからが楽しみ。

 というわけで、ナポレオン戦争も佳境。次巻、いよいよテメレアとローレンスたちが英国軍のもとで大活躍するのでしょうか。それとも孔明の、じゃなかったリエンの助力を得たナポレオンが史実を覆して英国を滅ぼすのでしょうか。早く続きが読みたくて仕方ありません。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0