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『息吹』(テッド・チャン)、『クリスタルの夜』(グレッグ・イーガン) [読書(SF)]

 SFマガジン2010年1月号は「創刊50周年記念特大号PART-I 海外SF篇」ということで、人気の高い海外SF作家たちの作品をごっそり翻訳紹介してくれました。近作12篇に名作再録5篇というボリューム。年末に向けて少しずつ読んでゆくことにします。

 まずは、巻頭を飾るテッド・チャンとグレッグ・イーガンという、今さら言うまでもないフロントランナーたちの待望の新作。

 熱力学第二法則(いわゆるエントロピー増大則)によると、もしも宇宙が閉じた系であれば、最終的には完全な温度均衡状態に達し、もはやエネルギー利用が不可能な熱的死(ヒートデス)を迎えることになる、とされています。しかし、この概念は必ずしも熱力学だけの問題ではなく、そこからエネルギーを取り出せるような「不均衡」には全て当てはまるのではないでしょうか・・・。

 というような妄想というか、奔放な想像力というか、要はSFファンの馬鹿話を、大真面目に書いたのがテッド・チャンの『息吹』です。一読して、そのあまりのバカSFぶりに大喜び。しかも、ラスト近くでは不覚にも感動してしまいました。こういうのに感動するからSFファンは駄目なんだ、と思いつつも、この話のどこに感動するのかさっぱり分からないという人とは、やっぱり親友にはなれないだろうなあ、という諦めにも似た感情を抱いてしまいます。

 一方、グレッグ・イーガンの『クリスタルの夜』は、まさしく往年の名作『フェッセンデンの宇宙』の現代版。

 コンピュータのメモリ上に構築された仮想空間で誕生した意識体に対して、私たちは創造主として好き勝手に振る舞うことが倫理的・道義的に許されるのか。この問いかけをめぐってシリアスに展開してきた物語は、ラスト近くに至っていきなりの超絶バカSFへ。うわ、こちらもバカSFだったかっ、飛び上がって狂喜乱舞ですよ。

 分子生物学や脳科学の進展により、生命現象や意識といったものが物質レベルの働きとして解明されつつある現代、では「命や心の尊厳」はどうなってしまうのでしょうか。両作に共通しているのは、そういった今日的な問題意識です。

 しかし、もはや最先端の問題意識をテーマにした作品は、バカSFという手法でしか書けないのかも知れませんね。いや、それはないか。とりあえず「常温ビッグバン」というネタだけでも盛り上がってしまいます。


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