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『ゲド戦記外伝』(アーシュラ・K・ル=グウィン) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 ル=グウィンの代表作の一つ『ゲド戦記』。その外伝です。

 『ゲド戦記』と同じくアースシー世界を舞台とした短編5篇が収録されています。さらに「アースシー解説」として、背景世界設定についての詳細な説明が付いています。

 短編は時代も主人公も様々です。『ゲド戦記』本編を読んでないと分からない話はないので、独立したファンタジー短編集として読んでも問題ないでしょう。

 「カワウソ」は、『ゲド戦記』のスタートよりも数百年前の暗黒時代を舞台とした作品で、一人の若き魔法使いの冒険を通じて「ロークの魔法学院」(後にゲドが本格的に魔法を学ぶことになる教育機関)がどのように設立されたのかが明かされる作品。恋と魔法と陰謀と戦争に満ちた本格ファンタジーです。

 「ダークローズとダイヤモンド」は、父親の期待に応えるべく魔法の勉強を始めたものの、音楽への情熱と恋人への想いゆえに全てを投げ捨てて駆け落ちする若者の話。後に書かれる『西のはての年代記』第一部『ギフト』の原型と思しき作品で、ストーリー展開がとても似ています。

 「地の骨」は、ゲドの師匠であるオジオンの若き日の話。本編でも触れられていた「地震を静めた」という伝説の真相が明らかにされます。不気味な予兆から始まって、やがて迫りくる大地震に対してオジオンとその師匠が立ち向かうクライマックスに至るまで、まるでディザスター映画のようなスリルとサスペンスに満ちた作品です。

 「湿原で」は、ある村にやってきた一人の魔法使いの正体をめぐる話。何やら事情があるらしいものの、しかし人柄がよく仕事熱心な彼は、村人から一目置かれます。しかし、次第に、彼が追われている犯罪者だということが分かってきます。それを承知でかばおうと決意する宿の女主人。ハードボイルド、西部劇、もちろん時代劇でも、まさに定番のストーリー。追手はもちろんゲドです。

 「トンボ」は、女人禁制であるロークの魔法学院に初めて足を踏み入れた女性の話。主人公が非常に印象的に書かれているのですが、彼女は本書より後に書かれた『アースシーの風(ゲド戦記V)』に再登場して重要な役を果たすことになります。ちなみに彼女の通り名であり作品タイトルでもある「トンボ」ですが、原文では当然ながら「ドラゴンフライ」です。

 どの作品についても、アースシーを舞台にしているという他に、多かれ少なかれ男性優位主義に対する異議申し立てが含まれているのが共通点。

 特に、「カワウソ」と「トンボ」は、女は魔法使いになれない、そのため魔法使いは女性蔑視が甚だしい、ゆえに女性に魔法を教えることは禁止されている、こうして女は魔法使いになれない、という、いかにもリアルな設定がテーマとなっていますし、「地の骨」にも痛烈な皮肉(女の功績はなかったことにされる)が含まれています。

 というわけで、本格ファンタジーあり、ロマンスあり、西部劇あり、ディザスターあり、ドラゴンと魔法使いの対決あり、という具合にバラエティに富んだ短編集です。どれも純粋に短編小説として出来が良く、本編を読んだことのない方でも充分に楽しめるはず。

 なお、『アースシーの風(ゲド戦記V)』を読む前に、本書に納められた「トンボ」を読んでおくことをお勧めします。


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