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『世界を変えるデザイン -ものづくりには夢がある』(シンシア・スミス) [読書(教養)]

 2007年に米国のスミソニアン/クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館で開催された"Design for the other 90%"(残りの90パーセントのためのデザイン)展の内容をまとめた本です。単行本出版は2009年10月。

 「世界のデザイナーの95パーセントは、世界の10パーセントを占めるにすぎない、最も豊かな顧客向けの製品とサービスの開発に全力を注いでいる。残りの90パーセントに届くには、まさにデザイン革命ともいうべきものが必要だ」(単行本p.40)

 本書はインダストリアル・デザインの世界で起きている新しい革命について語ります。それは、燃費に優れた車を設計したりクールな携帯電話を開発したりするのではなく、これまで顧客として認識されてこなかった世界人口の90パーセントを占める貧困層に向けた製品を提供すること。

 電気や水道がなく、安全な飲み水、食料、居住空間を持てない人々に対して、考え抜かれた「もの」を提供する。それが人々の命を救い、生活の質を改善し、さらに貧困から脱出するための手段となる。この一連の流れを慈善ではなく、ビジネスとして成立させる。これが熱意あふれるデザイナーたちの新しい挑戦です。

 「貧困層を慈善の対象ではなく顧客と考えることによって、デザインプロセスは根本的に変わる」(単行本p.55)

 ドラム缶を使ってさとうきびの芯からきわめて安価に練炭を製造する仕組み。竹製の足踏みポンプによる灌漑。大量の水を手軽に運搬できるドーナツ型の容器。気化熱を利用した電源不要のクーラー、どんな水も飲めるようにする個人携帯用浄水器、何度洗っても効果がなくならない防虫蚊帳。

 様々な製品やプロジェクトが美しい写真(それが現地で使われている様子を写したもの)と共に紹介されてゆきます。解説を読めば、それがどのような工夫と試行錯誤によって生み出されたデザインであり、どのようにして利用者の助けとなるのかが、よく理解できるようになっています。

 同情や慈善、寄付や社会運動ではなく、具体的なデザインと「もの」によって貧困問題に立ち向かい、顧客が自力で貧困から脱出する手助けをする。しかもそれをビジネスとして持続性を持たせる。この困難な課題に挑戦し、見事な仕事をなし遂げたデザイナーたち。

 「デザイン業界で、またデザインやエンジニアリング、建築の学界で、一つの運動が育ちつつある。自分たちの仕事を、社会的責任、持続可能性、人間性の豊かなデザインに向かわせようとするものだ」(単行本p.23)

 というわけで、インダストリアル・デザイナーや製品企画者など、「ものづくり」の上流工程に関わる職についている方々、またそれを目指している若者たちには、是非とも読んでほしい一冊です。デザインという仕事がどのような社会的パワーを発揮できるのか、その可能性に驚かされ、また勇気づけられるに違いありません。


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