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『太陽からの知らせ』(J・G・バラード) [読書(SF)]

 SFマガジン2009年11月号は、「J・G・バラード追悼特集」として、本邦初訳作品を含むバラードの短篇4篇、追悼エッセイ、評論、著作リストなどを含む充実した内容でした。

 まず、何と言っても「五十年にわたって親友でありつづけた」バラードについての思い出を語るマイクル・ムアコックによる追悼文。わずか2ページの短い文章なから、バラードの人となりを的確に伝えてくれます。必読でしょう。

 そして柳下毅一郎氏による労作『J・G・バラード著作リスト&自作コメント」が素晴らしい。全著作を刊行順に並べたリストだけでなく、そこにバラード自身による自作に関する解説やコメントを訳出して掲載してあるという親切さで、これからバラードを読もうという人(あるいは再挑戦しようという人)にとって必須のガイド。

 掲載されているバラードの短篇は、『太陽からの知らせ』、『コーラルDの雲の彫刻師』、『ZODIAC2000』、『メイ・ウエストの乳房縮小手術』の4篇。うち『太陽』と『メイ・ウエスト』は本邦初訳。

 どれも、いかにもバラードらしい作品なんですが、個人的には『太陽からの知らせ』が最も気に入りました。

 奇病の蔓延による世界の終末風景を描いた作品ですが、外世界における時間の枯渇につれて、内世界から溢れ出たビジョンが新たな現実を形作ってゆく様は、まさに「現実の外世界と精神の内世界が出会い、溶けあう領域」(バラードによるインナースペース=内宇宙の定義)を具体化したもの。

 内容と呼応するように、小説としての構造も融けてゆく(時間順の展開や描写といった小説の約束事が崩れてゆく)あたりの処理はさすがに見事で、頻出するモチーフも含め、いかにもバラードらしい好短篇だと思います。

 『コーラルDの雲の彫刻師』は、連作短編集『ヴァーミリオン・サンズ』の一話なのですが、改めて読んでみてもその幻想的な雰囲気は心地よく、また『ヴァーミリオン・サンズ』を読み返してみたくなりました。

 他の2篇は、うーん、よく分かりませんでした。てへ。

 ちなみに、バラード追悼特集以外では、『ナルキッソスたち』(森奈津子)が異様に面白かった。作者お得意のセクシャルマイノリティSFコメディですが、シリアスな雰囲気でスタートしておいて、思わず吹き出してしまう後半のドタバタぶり、そして「えーのんかそれで!」と突っ込まずにはいられない素晴らしき結末。好きだなあ、森奈津子さんのこういう話。


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