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『バレエ・メカニック』(津原泰水) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 早川書房「想像力の文学」レーベル最新刊、津原泰水さんの長編を読みました。

 同じ作者の『妖都』、『ペニス』、『少年トレチア』といった一連の作品を思い出させる幻想小説です。現実と幻想が溶け合った異様な光景が延々と続くところがみもの。

 「事故にあって植物状態で昏睡を続ける少女。彼女が見ている夢が世界を浸食し、広範囲に様々な超現実的風景を現出させてゆく。この現実崩壊を止めるには、夢を通して彼女の潜在意識にアクセスしなければならないらしい」というような話ですが、これはもう非常によくある設定、というか一つの定型パターンと言ってよいでしょう。

 この手の話は、導入部はわくわくするのに、基本的な設定が薄々分かってきたところで展開が失速してつまらなくなる、という失敗例が多いようです。とっさに思い出せる成功例といえば、P・K・ディックのいくつかの長編、それに萩尾望都さんの『バルバラ異界』くらいでしょうか。

 しかしながら、そこは津原泰水さん。設定には頼らずに、ひたすら幻想シーンで力業の勝負をかけてきます。幻想まみれの異界と化した東京を馬車(!)で旅する二人組(少女の父親と主治医なんですが、どことなく短篇シリーズ常連キャラクター「猿渡」と「伯爵」の面影もちらほら・・・)という第1章が何と言っても読み所で、残りの章は後日談というか外伝のような印象を受けます。

 書き下ろしの最終章がやたらとSF風なのに、SFマガジンに掲載された最初の2章が少しもSFらしくない(むしろ第1章はホラー風、第2章はミステリ風)というのが妙におかしい。

 というわけで、SF/ホラー/ミステリといったジャンル小説の風味を持ちつつも、結局はひたすら幻想小説の道を歩む、良くも悪くも津原泰水さんらしい長編です。その独特の雰囲気が好ましく、大傑作とまでは言えませんが、まずまず手堅い作品だと思います。

 津原泰水さんのファンにはもちろんですが、あまりジャンルにこだわらず広く幻想小説を好む読者にもお勧めです。


タグ:津原泰水
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