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『オタク的翻訳論 -日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻4「さよなら絶望先生」』(明木茂夫) [読書(教養)]

 中国関連書籍専門の東方書店で、シリーズ『オタク的翻訳論』の第4巻、『さよなら絶望先生』(久米田康治)を購入しました。著者はもちろん『オタク的中国学入門』の明木茂夫先生。

 翻訳不能、というか翻訳しても面白さがまるで伝わらないのではないかと危惧される『さよなら絶望先生』という難関に、はたして台湾の翻訳者はどのように取り組んだのか。そのギャグは台湾の読者にもウケるのか。はたしてオタクは文化や言語の壁を越えて伝わるか。君は今、知らなくてもいいものを目撃する!

 というわけで、台湾の漫画雑誌を手に入れた明木先生は、そこに乗っていた『絶望先生』に追加されている解説、題して「絶望講座」に注目。その内容を日本の読者のために詳しく紹介してくれました。

 この「絶望講座」に収録されている注釈が凄いのです。

 例えば、“「ゲキ坂」と書かれた標識のある坂道”という風景が描かれた、なにげない1コマ。そこに付けられた注釈(を日本語に訳したもの)はこんな感じです。(オタク的翻訳論 巻4 p.16)

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 自転車競技でしばしば選手の登坂能力を試すスロープ。この回の日本での連載時はちょうど安田剛士先生の『Over Drive』(鉄馬少年)の最終回が掲載されていたので、この一言が書き加えられた。ちなみに、この前後のコマに描かれた風景は、東京文京区本郷4丁目、小説家坪内逍遥旧家付近の「炭団坂」をモデルに描かれたものである。
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 どっひゃあーっ。このレベルの注釈が1コマ1コマ付いているんですよ!

 さらに久米田康治名物とも言える、箇条書きでぎっしりと書き込まれたネタの連打も全てきっちり中国語に翻訳した上で、さらに一つ一つに注釈が。

日本語原文
「足のない製造過程でも、ほぼ100パーセントの力を発揮できるジオ○グに心打たれる少年」

台湾版注釈(の日本語翻訳)
「足は装飾品に過ぎません! 上の人はみなそれが分からないのです!」

というかそれは注釈じゃないだろう。

 明木先生も「そもそもこれが『機動戦士ガンダム』という作品に出てくる話だという前提を完全にすっ飛ばして、いきなり「足のないジオング」という話を初めている、ということなのだ。これは注釈の態度としては、一般的には不親切なことだと言われても仕方がない」(オタク的翻訳論 巻4 p.27)と評しておられます。

 しかし、ここで明らかになるのは、「そもそもジオングを知らない人がこの世に存在するなどとは全く思っていない翻訳者と読者」の存在であり、“御宅族”という以前に台湾における普通の漫画読者のアレなレベルがうかがえます。

 さらに「絶望講座」には、各キャラの決めゼリフを日本語で叫んでみようのコーナー、題して「絶句教室」というのが連載されていて、絶望したーっ、告訴します、普通って言うな! などの言葉を原文(日本語)表記した上で、その発音(ローマ字表記)が示されているという、濃ゆっ。

 というわけで、明木先生もあまりのことに「『さよなら絶望先生』の中国語訳を巡っては、実に様々な論が展開できそうである。(中略)とてもこの小冊子では述べきれない。(中略)別途何らかの形でまとめる」(p.4)と宣言しておられるので、期待したいと思います。

 あと、このシリーズは学校の授業で副読本として使われているのですが、「この巻四には、学校の授業で使うには甚だ不適切なネタが含まれている。(中略)授業等で使用なさる際には、あるいは学生諸君に読ませる場合には、教員のみなさんの十分なご配慮をお願いしたい」(p.2)とのことなので、例えば「イメクラ」を中国語でどういうのか、そこにどのような注釈が付いているのか、「草むらに落ちているエロ本」が「日本特有の現象」というのはいったいどういうことなのか、台湾の若者に日本文化の神髄を理解してもらうために翻訳者が心血を注いで書いたであろう解説に興味をお持ちの方は、十分なご配慮の上、お読みくださるようお願いいたします。


タグ:台湾
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