SSブログ

『フジツボ -魅惑の足まねき』(倉谷うらら) [読書(サイエンス)]

「泳ぎ、歩き、逆立ちし、つつましく脱ぐ。つぶらな瞳と招く脚。ダーウィンが溺愛。アンモナイトにも乗った海辺のビーナス。図鑑、観察ガイド、ペーパークラフト、そして変態パラパラ付き! 充実のオールカラー版」(表紙より)

 岩波科学ライブラリーから出ましたフジツボ本。もはや科学解説書の域を遥かに越え、マニアが書いた熱狂的ファンブックの様相を呈しています。

 まず巻頭いきなり「可愛い、優雅、チャーミング、ヒーロー、繊細、丈夫、ワクワクする、可憐、ハラハラ、興味がつきない、打たれ強い、魅惑的、デリケート、奥が深い」という、研究者の皆様のフジツボに対する熱き想いが無制限にほとばしりまくる寄せ書きに目がくらみます。

「フジツボはなんと自分の体長の約八倍にまで伸びる生殖器を持っている。(中略)米国では一般の人がフジツボと聞いて真っ先に思い浮かべるのが、この「動物界で一番の長さ」ということらしい。米国のスクリプス海洋研究所の人が動画付きでフジツボの生殖器をうらやむ内容の歌をつくったりしたものだから、さらに関心が高まった」(p.37)

 というわけで、フジツボと言えば「動物界最長のペニス」というだけでひれ伏すのが米国人。

「研究とは別に、キプリス幼生の足あとを観察して楽しむ「足あとの会」フットプリント・アソシエーション(略称FA)という国際的な集まりを主宰する松村清隆博士」(p.43)

 キプリス幼生を愛でまくりその可憐な姿を盗撮するのが日本人。キプリス幼生ダンスを撮影した一連の写真(p.44)のキュートさは格別です。

 もちろん全てのフジツボ研究者は偉大なる先達であるダーウィンに敬意を持っています。ダーウィンの息子は、どこの家でも父親はフジツボを研究するものだとばかり思い込んでいて、友達に「君のお父さんはどの部屋でフジツボるの?」と尋ねたというエピソードが我がことのように誇らしげに語られたり。

 本書に収録されているダーウィン年表(p.55)には、18歳のときのフジツボ観察から始まって、生涯に渡ってひたすらフジツボ研究のことだけが書かれていて圧倒されます。もちろん他の業績は完全無視。『種の起原』という本など、ただ「フジツボへの言及が7カ所ある」という評価です。

 フジツボに惚れ込んだ人々の所業も素晴らしい。「フジツボの名前を10種類言えたら特別に今日は通してやろう」と挑戦してきた寿司屋(p.88)、著者のイヤリングを一目みて「チシマフジツボですね」と同定した研究者(p.99)、初対面の著者にいきなり「柄が有るフジツボの魅力」について延々と熱く語り出した研究者(p.100)、フジツボの蔓脚運動が人の心を癒すことを脳の動きを可視化する技術を使って証明することを目指す研究者(p.103)などなど。

 フジツボが作り出す水中セメントの医療への応用(特に歯科)、環境指標生物としてフジツボがいかに有用であるか、など実利的なこともばっちりおさえてあります。

 さらに、フジツボ図鑑、フジツボ観察ガイド、変態パラパラ、さらには「フジツボをつくろう!」と題したフジツボ・ペーパークラフト(組み立てるだけで、あなたの部屋のお好きな場所に立体フジツボを付着させられます!)などなど付録も充実、しすぎ。

 美しい写真やイラストも多数フルカラーで収録されており、やや高い値段に見合うだけの価値は充分にあります(フジツボの魅力に目覚めた後なら)。フジツボの変態に尽くせぬ興味がある方はもちろんのこと、理系研究者の変態について尽くせぬ興味がある方にも強烈にお勧めです。読後、脳内にフジツボが付着しそうです。

フジツボペーパークラフトのページ(ダウンロード可)
http://www.kitasato-u.ac.jp/fish/contents/lab/l22_n/paper%20craft.html


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0