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『蟹は試してみなきゃいけない』(バリントン・J・ベイリー) [読書(SF)]

 SFマガジン2009年5月号は、バリントン・J・ベイリーとトマス・M・ディッシュという昨年亡くなった二人の追悼特集。どちらの特集を先に読むかでSFファンとしての立ち位置が決まる、というわけではないと思いますが、私は迷わずベイリー追悼特集から読み始めてしまいました。色々とすいません。

 さて、バカSFの巨匠、バリントン・J・ベイリー氏の本邦初訳短編が3作も収録されているのは至福という他はなく。

 まずは『邪悪の種子』。不老不死の秘密を奪うべく、地球を訪れた異星人を追いかけ回すマッド外科医の話。解剖させろと叫びながらあらゆる試練を乗り越えメス振りかざして追っかける外科医、ひたすら逃げる異星人、とうとう人類絶滅したその後も、続くよ続く大追跡劇。そしてその結末は・・・。

 いやー、巻頭からむっちゃトバしてます。あまりのバカっぷりにほれぼれ。

 続いて『神銃(ゴッド・ガン)』。タイトルはベイリーの代表作『禅銃(ゼン・ガン)』を連想させますが、内容は全然関係ありません。ある天才科学者が、光の速度をマイナスにすることで、時間軸上を過去に向かって進むレーザーを発明します。出力を最大にして発射したレーザービームは、天地創造の瞬間まで時をさかのぼり、ついに「光あれ!」と叫んだ神に見事に命中。神は死んだ・・・。

 いかにもベイリーらしい作品。その発想のアホらしさに感動を覚えます。

 ただ、どちらの作品も、不老不死は業罰に他ならない、とか、神がなければ生きる喜びも失われてしまう、とか、そういうありきたりなオチなのが残念。良識的というか、キリスト教的な倫理観から一歩も踏み出さないというか。一瞬、ベイリーは自分の書いているものが正真正銘のバカSFだと気づいていなかったのではないか、という不安さえ覚えます。

 最後は『蟹は試してみなきゃいけない』。昔のアメリカ青春映画みたいな話。仲間とつるんでは酒を飲み、頭の中は女の子とヤルことばかり、仲間うちで「誰がどこまでいった」とか、「女の子のアソコはどうなっているのか」とか、そんな話ばかりしている若者たちの無軌道青春グラフィティ。ただし、みんな蟹ですが。

 蟹たちの青春を大真面目に書いた怪作。一生のうちに交尾ができるのは千匹に三匹か四匹、ほとんどの雄は、雌に求愛し続けた挙げ句に童貞のまま生涯を終える運命、それでも、蟹は試してみなきゃいけない。

 蟹の生殖プロセスが生み出す悲喜劇がオカシイやらもの悲しいやら。ここまでアホな話が男の共感呼びまくり、何と英国SF作家協会賞を受賞。ベイリー晩年の代表作としてファンの間で熱烈に愛されているというんだから、SFファン(主に男性)は哀しい色やね。

 というわけで、期待を裏切らないベイリーでありました。素敵。


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