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『現実入門―ほんとにみんなこんなことを?』(穂村弘) [読書(随筆)]

 歌人の穂村さんが、自分の「現実体験」の不足を克服すべく、様々な「現実」初体験に挑戦するという連作エッセイ。

「目の前の現実をひとつひとつこなして生きることは、若くてもできるひとにはできる。年をとってもできないひとにはできない。どうしてそうなのかはわからないが、今までの人生でそのことは痛感している」(文庫本p.218)

 というわけで、42歳になった著者が生まれて初めて体験する「現実」の数々とは。

 献血、モデルルーム見学、占い、合コン、はとバスツアー、ブライダルフェスタ、健康ランド、お父さん、競馬、大相撲、部屋探し、そして・・・。

 ふざけんな、と思いますが、著者は大マジです。決死の覚悟で、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ、涙目で挑戦します。その悪戦苦闘ぶりがおかしくて。

 文章は平易で読みやすく、そしてバランスがとれています。これ以上シリアスだと痛々しくなるし、これ以上ふざけると白々しくなる。どっちに転んでも読者を不快にする、その間隙をきわどく抜けてゆくような、そんな文章。

 岸本佐知子さんの一連のエッセイや、あるいは町田康の『耳そぎ饅頭』を思い出しますが、著者のヘタレっぷりは独特です。ずっと実家で両親と生活しており、42歳にして初めて一人で部屋探しをする、怖くて怖くて不動産屋に入ることが出来ない。子供か。

 と言いつつ、では私はどのくらい「現実」を体験しているのか。ふと気になって確認してみたところ、えーと、モデルルーム見学と部屋探しはやったことがあります。それ以外は、まあ、私も未体験です。いいんじゃないですか。まだ40代なんだし。

 実は著者の観察眼が何気なく鋭い。はとバスツアーに参加しているおばさんたちの言動、子供の支離滅裂なセリフ、合コンでの女の子との会話など、すごくリアリティを感じさせます。

 こういうリアリティを土台にして、虚構と現実を適度に織りまぜて読者を翻弄するという、けっこう面白いエッセイです。自分も「現実」体験が不足していると思う人はどうぞ。

タグ:穂村弘
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