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『パンク侍、斬られて候』(町田康) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“町田康を読む!”第14回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、パンク時代劇なる新ジャンルを開拓した長編。単行本出版は2004年3月。私が読んだ文庫版は2006年10月に出版されています。

 前作に収録されている『逆水戸』という短編は、テレビ時代劇から予定調和が失われるとどうなるかを描いていたのですが、本作はそれを発展させ、時代劇の枠組みをぶち壊して「現代」を書いてみせた傑作です。とにかく痛快無比という他はありません。

 何しろ会話が、「それがし」、「でござる」といった侍言葉と、「やっぱ止めとくわ」、「マジむかつく」みたいな現代口語と、「はは、おもろ」みたいな町田語が平気で入り交じるという、独特の文体で書かれているのです。最初は面食らうわけですが、慣れてくるとこれがもう爽快で。

 単独で書かれると使い古された感じがする様々な言葉を、そのマンネリ化した文脈から切り出して、卓越した言語感覚でもってえいやっと混ぜ合わせることで、まるで化学変化が起こったように、何とも言えない新鮮な響きをともなう会話文が出来上がるという発見、その驚き。

 現代口語を使うどころか、フランク・ザッパだのファックスだの困ったちゃんだの平気で口にする登場人物たちですが、それでもあくまで時代劇という設定を律儀に守るのが異様なおかしさを生んでいます。

 実のところ、時代劇のふりして「仕事ができない無能な社員」の迷惑っぷりをリアルに書いた作品で、そういう意味では『実録・外道の条件』や『テースト・オブ・苦虫』のバリェーションではあるのですが、それが時代劇という舞台に載せた途端に生き生きとしてくるのは不思議です。

 余談ながら(余談ですか)ストーリーも面白い。権謀術数あり、チャンバラあり、仇討ちあり、密偵あり、美女あり、エスパーあり、猿芝居あり、邪教あり、野外パンクロックコンサートあり。クライマックスには馬鹿の群れと猿の軍団が激突する一大合戦シーンまで用意されています。読んでいてあまりの面白さにひっくり返りそうになりました。

 いちびりも素晴らしく、秘剣『悪酔いプーさん、くだまいてポン』と秘剣『受付嬢、すっぴんあぐら』の決闘とか、いい歳こいた大人が何書いてんだか。こういうのが全編に渡って頻出するのですが、別におふざけではなく、あくまで大真面目にやってるのがポイント。

 私見ですが、「おふざけ」が一過性の行為に過ぎないのに対して、「いちびり」は生き様、それも極めて真剣な生き様の一つで、1962年大阪生まれの町田康は何かそういうものをへらへら背負っているのだと、私はそう思います。

 というわけで、『ヤマザキ』(筒井康隆)をはるかに越える強烈なパンク時代劇。これまでの作品はもうひとまとめに「初期作品」というくくりで、本作をもって町田康の本領発揮ということにしたいと存じますがご異論のある方はどうか挙手願います、という感じなので皆様ぜひお読みください。


町田康を語る言葉コレクション

「日本文学に、ある決定的ななにかをもたらすために、どこかから(もしかしたら、遊星Xから)派遣された、謎の生命体」(高橋源一郎)

    文庫版『パンク侍、斬られて候』解説より

タグ:町田康
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