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『暗黒整数』(グレッグ・イーガン) [読書(SF)]

 SFマガジン2009年3月号「2008年度英米SF受賞作特集」に掲載されたグレッグ・イーガンの近作です。驚いたことに名作『ルミナス』の直接的な続編で、語り手も同じ、他の主要キャラクター2名も再登場します。

 『ルミナス』は、我々の物理学が基礎としている数論とは異なるオルタナティヴ数論ベースの世界との数学的接触という事件を扱った、世にも珍しい「純粋数学SF+ファーストコンタクトSF」というハードSFでした。初めて読んだとき、いかにもイーガンらしいぶっ飛んだ奇想に感嘆し大喜びしたものです。

 本作は、それから10年後が舞台となります。事件のことは関わった3人だけの秘密にされており、彼らはこっそりオルタナティヴ数論ベース生命体との通信を継続しているという設定。そんなとき、別の研究者が知らないうちに「あちら」の命題の真偽値を書き換える(つまり「攻撃」する)アルゴリズムを発見したために緊張が一気に高まり、ついに戦争が勃発しかけるという話です。

 率直に言って、「何であの名作の続編をこんな話にするかな・・・」という幻滅を覚えました。せっかくオルタナティヴ数論世界という形而上の概念が物理的に存在している(ただし純粋数学的にしかコンタクト出来ない)という魅力的なアイデアが基本なのに、冷戦やらテロの話に持ってゆくのがいかにも安直というか、ダサいと思うのですが。

 ストーリーテリングやキャラクター造形も魅力的とは思えないし、せめて「あちら」から「こちら」への「純粋数学的攻撃」をもっともらしく書いてくれれば馬鹿SFとして評価できたかも知れませんが、単に大規模サイバーテロにしか見えません。『ルミナス』で、意図せず「こちら」から「あちら」へ「純粋数学的攻撃」が行なわれるシーン、そしてそれに対する反撃のシーンは、あれほど魅力的に書かれていたというのに。

 どうも、個人的には『ルミナス』には到底及ばない失敗作だと判断せざるを得ません。正直がっかりです。

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