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『時間封鎖』(ロバート・チャールズ・ウィルスン) [読書(SF)]

 ひさしぶりに読んだ本格SF。ヒューゴー賞を受賞した作品です。上下巻の二冊組み文庫本として出版されています。

 あるとき、いきなり空から星々が消えてしまう。やがて、地球全体が漆黒のシールド「スピン」に覆われており、しかも、スピンの内側では時間経過が1億分の1に減速されていることが判明。つまり、地上で1年が経過する間に太陽系では1億年の時間が流れるということに。なら数10年後には、地球は膨張する太陽に呑み込まれて消滅する!

 『狂った星座』(フレドリック・ブラウン)を思い出させる天文異変から始まって、『宇宙消失』(グレッグ・イーガン)を彷彿とさせる封鎖世界へと展開し、『異星の客』(ロバート・A・ハインライン)を経て、『無常の月』(ラリイ・ニーヴン)へ。様々な名作SFの印象的なシチュエーションを取り込んで見事に再構成した傑作です。SFファンのハートをがっちりつかんだのも無理はありません。

 背景となる奇想天外なアイデアからは「馬鹿SF」の香りがしますが、読んでみると意外にも真面目な、というか「この世の終わりを前にしたとき、人々はどのように生きるだろうか」というテーマを追求した小説になっています。

 「科学」の力で理解しようとする者、「宗教」に頼って受け入れようとする者、ひたすら「観察」に徹する者、「政治」的に利用しようとする者、そして無視して「日常」生活に閉じこもる者。主要登場人物たちは、それぞれの立場からスピン時代を生き抜こうとしてあがくわけです。

 主要登場人物たちですが、まあステレオタイプばかり、というか、いかにもハインラインが書きそうな人物造形です(ちなみに、作品全体からハインラインの影響は強く感じられます)。ただ、手を抜かずにきちんと書き込まれているため、存在感は充分。彼らの運命が気になって読み進めることになります。特に下巻の中頃からは、面白くて途中で読書を中断することが出来ず、最後まで一気読みしてしまいました。

 登場人物たちの人生を描くことに主眼が置かれているため、SF的な奇想は控えめになっているのですが、ところどころ「はっ」とするシーンが配置されていてSF魂を刺激してくれます。火星への植民船の打ち上げに成功したら、その日のうちに火星から宇宙船がやってくる(火星では10万年が経過している)とか。

 ラスト近く、地球に対して時間封鎖が行なわれた理由が明らかになりますが、ここは良い意味で馬鹿SFテイストにあふれていて素晴らしい。

 というわけで、小説としての完成度とSFマインドがうまくバランスしており、読みごたえのある作品です。三部作のパート1に当たるとのことですが、ストーリーは完結しているので、本作だけ読んでも問題ないと思われます。

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