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『耳そぎ饅頭』(町田康) [読書(随筆)]

 シリーズ“町田康を読む!”第7回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、作者の第3エッセイ集、あるいは初の連作随筆集、『耳そぎ饅頭』です。単行本出版は2000年3月。私が読んだ文庫版は2005年1月に出版されています。

 小説がどんどん凄みを増してシリアスになってゆくのに対して、エッセイの方は、おちゃらけ文体といい脱力内容といい、相変わらず「いちびり」のまま。読者を笑わせることに専念しています。

 本作は1997年から1999年まで『鳩よ!』に連載されたエッセイシリーズで、テーマは「偏屈からの脱却」。つまり、世間や他人様がもてはやすもの、流行りものに、「けっ」とばかりに背を向けて、俺はそこらの愚民とは違うのだ、などとひねくれている自分、そんなだから曲が売れないのだ、という反省から

「自分は俄然立ち上がり、人の、社会の、世間の輪のなかに、たち戻ろうとして歩き始めた。本書はその記録である」(「あとがき」より)

とのこと。何という高い志でしょうか。1962年大阪生まれという宿痾を背負いながら、偏屈な己を捨て、世間に立ち戻ろうとは。

 で、まず連載第1回の内容ですが、「カラオケを歌った」というしょうもないもの。まあ最初はこんなものかと思っていたら、第2回の内容は「温泉に入った」というどうしようもないもの。第3回の内容に至っては「買い物に行った」・・・。

 以降、「散髪した」、「競馬にいった」、「酒を飲んだ」、「ハンバーガーを喰った」、という感じで続きます。

 後半に至っては「イルカショーを見た」、「東京ディズニーランドに行った」、「京都タワーにのぼった」、「ナムコ・ナンジャタウンに行った」・・・。

 ほとんど小学生の作文というか、夏休みの絵日記みたいな内容になってゆき、このあたりで連載は打ち切りに。

 「世間の輪のなかにたち戻らんとする挑戦」という建前のもとで、単にどうでもいい瑣事を手抜きで書き飛ばしていただけではないか、という疑惑がむらむらとわいてきますが、しかしこれが面白い。肩の力を抜いて大いに楽しめます。

 というわけで、町田康の文章力があれば、もう内容なんてどうでもよく、はっきり言えば何を書いても面白い、ということを証明してのけた、最初から最後までいちびり倒しの一冊です。


町田康を語る言葉コレクション

「町田康はズルイのである」(井上陽水)

    文庫版『耳そぎ饅頭』解説より

タグ:町田康
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