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『光車よ、まわれ!(復刻版)』(天沢退二郎) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 世間的には今日は合衆国大統領選挙の日なのでしょうが、私にとっては46年前に自分が生まれた日であるわけで、今日は過去を振り返っておきたいと思います。

 そういうわけで、児童向けファンタジーの名作『光車よ、まわれ!」』です。

 現在、復刻版と文庫版が出ているのですが、自分の過去を振り返るためですから迷わず復刻版を手にしました。小学生のときにこれを読んで眠れないくらい怖かったのをまざまざと思い出します。復刻版では、あの不気味なイラストを含めて、原本がほぼ完全に再現されていて嬉しい。

 読んでみてまず驚いたのが、文章が子供向きではないということ。小学生のときによくこんなもの読んだなという気がするのですが、あの頃は本は貴重品でした。難しくても何でも、とにかく必死で読んだのでした。今、あの頃のように必死で読書するということがなくなっているのは寂しいことです。

 次に、大人が読んでも怖い。小学生のときにびびり上がったのも無理はありません。全体的に不条理で、敵もよく分からないし、味方もよく分からない。次々と悪夢のようなシーンが出てきて、それが子供の日常生活と地続きになっているのが何とも言えず不安をそそります。特に主役の一人であるルミの体験は、微熱があるときに見る不条理な悪夢の感触まんまで、読んでいても嫌な気分になります。

 子供たちを襲う敵は、最初は「水魔」なのですが、途中から「緑衣隊」が加勢してきます。最初は恐ろしげに書かれている水魔は、実のところ結構まぬけで大したことはなく、何度もドジを踏んでいる様子に次第に愛嬌すら感じてしまうわけですが、問題は緑衣隊のほうです。

 水魔がしょせん「おとぎ話」であるのに対して、緑衣隊はリアルです。あっさり子供を殺し、母親を連行して行ってしまう。学校の先生も、クラスの優等生も、緑衣隊の手先になっています。道に子供の死体が並べられているという、目を背けたくなるような陰惨なシーンも平気で出てきます。

 小学生のときは気づきませんでしたが、緑衣隊の正体は、本書にはっきりと書かれていました。それは「国家」だと。

 水魔が最後は「おとぎ話」らしく光車の力で退治されてしまうのに対して、緑衣隊は退治されません。それどころか、自分たちを監視し、排除しようとしている悪意を主人公が自覚するところで終わるのです。ひー、そういう情け容赦ない現実を子供に教えていたのか。

 この物語における本当の敵は「国家」、つまり「権力」であり、「同調圧力」であり、異物を排除し抹殺しようとする「良識」であり、ふりかざされる「正義」であり、光車も龍子(リーダー)も失った主人公は、誰も頼ることなく立ち向かってゆかなければならないわけで、それがつまり大人になるということでしょう。

 すぐ国家の代弁をしたがるような、国益がどうのこうのといった物言いがやたら好きな人々に対して、私が反射的に抱く警戒心(こいつらは敵だ)は、小学生のときに本書を読んだせいで培われたものかも知れません。子供に反体制思想を植えつける「有害図書」だよなあ。

 というわけで、こういう素晴らしい「有害図書」が復刻されたのはまことにめでたいことです。皆さんも、自分の子供に読ませて、緑衣隊に取り込まれるのを防ぎましょう。

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